News Letter NO.39(冬季号) 2023年12月27日

事務局長退任のご挨拶(前事務局長 中田 喜万)

お約束の3年間(2020年12月〜2023年11月),なんとか最小限の責めを塞ぐことができたようで,今は一安心しているところです。これも前会長の苅部直先生,現会長の長志珠絵先生をはじめ,諸役員のかたがたのご指導・ご教示,そして会員の皆さまがたのご協力のおかげです。心より御礼申し上げます。

事務局長の役得の一つは,専門分野が離れながらも同じく日本思想史学を志す老若男女・国内外の大勢の人々と,会務を通した形ではありますが,お知り合いになれることでしょう。様々な立場・境遇にあって同学を志す人々の存在それ自体が,おのれの学問への意欲・勇気の支えになります。同じく事務といっても,某監督官庁がらみの無駄で煩雑なエクセル書類さばきなどと比べたら,こちらは会員の皆さまのご研究を下支えする,実に有意義なお仕事であり,やり甲斐を覚えたものでした。貴重な経験でした。(だから,どなたか,事務局を引き受けてみませんか?)

この3年間,学会の実務において次のような二つの変化が進展しました。

第一に,ペーパーレス化・ウェブ化です。この3年間はコロナ禍対応の期間でもあり,年次大会自体が2度オンライン開催となりました。報告要旨等もデータ配信で済ます必要が生じました。それを承けて,事務局としても学会員のメーリングリストの整備を行って参りました。その副産物として,年2回のニューズレターが基本的にメール配信で済ませられるようになり,学会関係のお知らせを速報することも可能となりました。またオンライン会議の導入は,海外と容易に交流できる手段を入手したことでもありました。これらはコロナ禍以後も,ある種の遺産として活かしていくことになるでしょう。

ただ,急激な変化に全員が対処できるわけではありません(私自身,段々時代遅れ気味です)。慎重を期すべきこともあります。例えば評議員選挙は従来の方式を踏襲し,電子投票の導入は見送りました(しかし評議員の互選による会長候補者選挙には,選挙管理委員の先生方のご尽力により,簡易の電子投票が導入されました)。

第二に,学会財務状況の改善です。これは何より,会費の値上げに皆さまのご協力を得られたおかげです。その際,請求書の様式を変更し,各自の会費未払い分が明瞭になるようにしました。想定を超える会費収入が集まり,近年の緊縮政策を脱する下地ができました。

3年間の開催校,甲南大学・慶應義塾大学・同志社大学からは,巨額の余剰金を返還していただきました。オンライン化などで冗費を節減できたから,とのことでしたが,きっと見えないところで新規の試みのためにご苦労があったはずなのに,それは費用として一切計上せずに清算していただき,まことに恐縮です。なお,オンライン化・ペーパーレス化で,委員会経費,事務局経費の節減も可能になりました。郵送料や銀行振込手数料等の節約にも努めました。

ウェブ担当の森川多聞幹事には,上述のとおり益々重要になる仕事を長年にわたり担っていただいております。事務局の播磨崇晃幹事は,私が本務校の用務で首がまわらない時も,病院のベッドで管につながれている時も,滞りなく忠実に,正確に会務を処理してくださいました。両氏に深甚の謝意を表したいと思います。

後継事務局は,前々事務局の宇野田先生の研究室に奉還する形となりました。学会運営が磐石の体制になると確信いたしますが,その一方で,大阪大学にご負担がかたよってしまいますことが最大の心残りです。

どうしても研究よりも会務の心配事を優先せざるを得ない日々が続きました。今後は一会員として,楽しく学業の研鑽に努めていく所存です。

新事務局よりご挨拶(新事務局長 宇野田 尚哉)

事務局をお預かりするのは前回(2017年12月〜2020年11月)に続き2度目となります。前回かなり仕事を合理化したつもりでいましたが,前事務局長の中田喜万さんと前幹事の播磨崇晃さんが一層の合理化を進めてくださいました。

本会は,この少子高齢化の時代に会員数が増加しつつある将来有望な組織です。新幹事の平尾漱太さん,余人をもって代えがたいHP担当幹事の森川多聞さんとともに,会務のつつがない運営に努め,微力ながら本会の発展に貢献できればと思っておりますので,ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。とくに若手の方々が学術的ステップアップの機会として本会の大会や学会誌,奨励賞を活用してくださることを期待しています。

2023年度日本思想史学会大会を終えて(大会実行委員長 片岡 龍)

11月11・12日に東北大学川内南キャンパスで,2023年度日本思想史学会大会が無事開催されました。大会参加者(アルバイトの学生を除く)は156名(会員133名,非会員23名),懇親会には112名(招待者ふくむ)の方々が集まりました。10年前に同じ東北大学で開催された2013年度大会(大会179名,懇親会109名),また東京大学開催の2017年度大会(大会175名,懇親会105名)にほぼ匹敵する人数です。ホームページ上に公開されたニューズレター冬季号で確認できる2005年度大会以来*,少なくとも懇親会参加者数では歴代トップ**。

これはやはりコロナ感染症流行以来4年ぶりの懇親会だったことが一番の理由でしょうが,また昨年度来の事前振り込み割引制を懇親会にも適用したことも大きかったと思います。特に学生・非常勤の方の事前振り込み額を出血覚悟の大幅割引(大会参加費1,000円,懇親会費2,000円)した結果,従来よりも多くの若手の方が懇親会にも参加されたようです。

もちろん懇親会だけではなく,大会自体も盛況でした。研究発表の数は30(うち古代・中世2,近世8,近・現代20),パネルセッションは4部会ありました。これは2013年度(東北大),2014年度(愛知学院大)には及びませんが(両年度とも研究発表42・パネルセッション1),2009年度(東北大),2015年度(早稲田大)に近接する数字です(2009年度は研究発表36・パネルセッション2,2015年度は研究発表33・パネルセッション3)***。

とはいえ,数が多いばかりがよいわけではありません。大会2日目の朝から夕方まで,研究発表が3会場,パネルが1会場,そこに午後には「思想史の対話」1会場が加わります。2日目の夕方ともなると,遠方参加の方は早めに戻られるので,一つの会場に2〜3人しか聴衆がいないという場合もありました。土曜午後にシンポジウム,日曜の午前・午後に研究発表とパネルセッションという従来の形を見直すことの必要性は,すでに2005年度東京大会(研究発表26・パネルセッション3)から唱えられています。そろそろ抜本的対策を講じるべき時期かもしれません。

最後に,今回は大会実行委員長のわたしが開催5日前の朝に事故して,4日間入院することになりました。とんだ失態ですが,大会運営はすべて大会実行委員(引野亨輔,曽根原理,オリオン・クラウタウ,岡安儀之,佐々木隼相,冨樫進)の尽力により,つつがなく終えることができました。特に学生アルバイト等の手配はじめ,大会全般にわたって下支えしていただいた佐々木さんに感謝申し上げます(そのほか謝辞を述べはじめると無尽のため割愛)。

東北大史料館との共催になる附属図書館での特別展示「阿部次郎と法文学部」の準備は,すっかり曽根原さん,岡安さんに一任しました。こちらにも多くの会員が足を運んでくださったようです。実は,東北大学文学部阿部次郎記念館(前身は1954年に開所した阿部日本文化研究所)は本年度で閉館です。一つの時代が終わりを告げ,また新たな時代(「55年後の未来」?)の幕開けを予感させる,まさに絶妙なタイミングの企画でした。

* 2007年度,2008年度,2010年度,2020年度,2021年度は不明。
** 大会参加者数では歴代5位。ちなみに大会参加者数歴代1位は2005年度(東京大)の268名(うち非会員50名),2位は2011年度(学習院大)の244名(うち非会員68名),3位は2013年度(東北大)の179名(うち非会員26名),4位は2017年度東京大の175名(うち非会員66名)。
*** なお,今回これらの数字を調べるためにニューズレター冬季号の大会実行委員長記事を遡ってみたところ,従来慣例化されていた研究発表数(古代・中世,近世,近・現代別の内訳も)の記載が,2010年以降なくなっていることに気づいた(大会案内のプログラム等で確認は可能)。よけいなお節介だが,こうした数字を整理・記録しておけば,のちのち色々と便利では。

2023年度日本思想史学会大会参加記(東北福祉大学 冨樫 進)

昨年度に引き続き対面開催形式での開催となった,2023年度大会に参加した。

今回は大都市圏を離れた東北地方での開催という点に加え,隣接分野の学会大会と2年連続で日程がバッティングしていたこともあり,私自身は発表数・参加者数のいずれも比較的少数に止まるのではないかと予想していた。しかし,いざ蓋ならぬプログラムを開いてみたところ,今大会はシンポジウムに加えて30本の個人発表と4本のパネルセッション,しかも古代から現代にまで至るバラエティに富んだ,非常に期待度の高い内容となっていた。

5月に感染症法上における新型コロナウイルスの分類が5類に引き下げられたことに伴い,観光需要の回復による宿泊施設不足が全国各地で生じている。仙台も例外ではなく,遠方からお越しの会員諸氏の中には宿の確保に苦労された方も少なくなかったようだが,今大会のプログラムからは「万難を排してでも参加したい」と思わせる魅力が発散していたようだ。

好天に恵まれた第一日目の午後,文科系総合講義棟――やはり東北大学川内南キャンパスを会場として開催された2013年度大会の時には,影もかたちもなかった建物である――にてシンポジウム「語られる「始原」――開祖の宗教史」が催された。

信仰の継承者たちは自らの生きる時代毎の要請や自身の思惑に制御されつつ,過去の歴史の中に象徴的〈開祖〉像を見出していく。また,それらの上位に超越的存在たる金毘羅を位置づけることで新たにコスモロジーを創造・提示し,信者獲得を実現しようという戦略的意図の下に既成の〈開祖〉像が流用されるという如来教のような例もあった。

奇しくも,登壇者の一人である石原和氏が報告のなかで紹介された『物語の哲学』の著者・野家啓一氏は,かつて東北大学で教鞭を執られていた。そのような地において,語りという行為を通じて歴史的に創造されていく〈開祖〉像をめぐるシンポジウムが開催され,充実した議論が展開されたという事実は,大変意義深いことであったといえよう。

前日とは打って変わって肌寒い一日となった第二日目は,個人発表(第一〜第三部会)3会場,パネルセッション1会場の合計4会場にて開催された。

第一部会が近世・近代,第二部会が近現代の発表でそれぞれ固められていたのとは対照的に,第三部会では古代から現代に至る各時代の発表が行われるとともに,デスマスクや大河ドラマ・公害病など,かつては採り上げられることのなかったような新しいテーマの目立った点が非常に印象的であった。第一日目のシンポジウムの諸報告とともに,日本思想史という学問の有する懐の深さや可能性について,改めて思いを致すきっかけにもなった。

その一方で,今大会は発表本数が大幅に増加したことにより,聴きたい発表が同時間帯に集中・重複してしまい,どちらの会場に行くかの二者択一を迫られる場面が多かった。プログラム編成には多大な苦労が伴うことを承知の上で,来年度以降の大会ではより多くの発表を聴くことのできるような方向に改善されることを期待しつつ,筆を擱くことにしたい。

第17回日本思想史学会奨励賞授賞について―選考経過と選考理由―(奨励賞選考委員会)

[第17回日本思想史学会奨励賞受賞作品]

【論文部門】
【書籍部門】

[選考経過]

第17回日本思想史学会奨励賞は,例年どおり,ニューズレターおよびホームページを通じて公募した。それに学会誌『日本思想史学』第54号掲載の投稿論文で奨励賞の資格を満たしたものを加え(選考規程第5条),それらを【論文部門】と【書籍部門】とに分けて選考を行った。

選考委員全員で慎重に審査を行った結果,全会一致で,上記著作への授賞が決定した。

●「「除奸」と「殉難」の間――水戸学者・豊田天功と吉田松陰における楊継盛受容――」選考理由

激変する幕末の政治史において,志士たちは,和漢の忠臣たちの言動に自らの行動規範や針路を見いだそうとした。浅見絅斎『靖献遺言』や「和文天祥正気歌」こと藤田東湖「正気歌」が人口に膾炙していく。本論文では,ほとんど先行研究の無い,楊継盛(椒山)に対する豊田天功の評価を,吉田松陰による評価と比較して詳細に分析している。吉田松陰らは楊継盛の「殉難」を高く評価するが,豊田天功による評価には,「殉難」と「除奸」との間に緊張関係が見られ,政敵・結城朝道の悪事を後世に伝えるために,「殉難」ではなく「除奸」に力点を置いた評価をする。激動の水戸藩の政治史と緻密に関連させて,楊継盛受容を論じる力量は卓越しており,自らの政治的主張の正しさを証明しようとして,旺盛な情報収集を豊田天功が行った可能性も指摘している。幕末思想史研究に新たな発展をもたらす研究として授賞に値する作品と言えよう。

●「平田篤胤の語る大和魂――理想的心性における雅と武の統合――」選考理由

近年の篤胤研究は,彼の思想における霊魂や幽冥の問題に関心を向けてきた。それに対し,本論文は,彼の思想において大和魂が持つ意味に注目することにより,現実世界における倫理の問題を中心に据える。篤胤が,その講釈において大和魂を語る際には,外患の原因たる西洋に優越する日本の武強さが強調された。ここには,「雅」という価値を神話に見出し自らの理想とした本居宣長との差異があるが,篤胤はたんに「雅」を「武」に置き換えたのではなく,天岩戸神話におけるアメノウズメの役割を再解釈することにより「雅」と「武」を統合したのであることが指摘される。アメノウズメの舞が神々の笑いを引き起こすさまに「雅」の原型を捉える篤胤は,大和魂を,身近な人間関係を調和する「雅」と外敵に対峙する「武」を統合した理想的心性として当時の聴衆に講じたとする本論文の論点は説得的である。聴衆の側の問題にも留意しつつ以上のように篤胤の講釈を分析する本論文は,化政期以降の思想史研究に当該期における思想と社会の関係にも留意しつつ新たな展望を拓く業績として授賞に値する作品であると言えよう。

●『大和心と正名――本居宣長の学問観と古代観』選考理由

本居宣長をめぐる近世思想史研究は豊富な研究蓄積が積み重ねられ,多様な論点を提起してきた。特に90年代ではいわゆる構築主義的な観点での研究が多く登場し,宣長の日本主義と脱中華思想との連続性が強調され,「漢意」批判として文字文化論が強調された。

これに対し本書は,『論語』子路篇に由来し,江戸期儒者たちが多く言及した「正名」への着眼を通じ,新たな宣長研究の試みという切り口を説得的に展開している。第一部「本居宣長の孔子観と「正名」」では,玉勝間第九三条の再解釈によって,儒学批判と孔子への高い評価が並存することを見出し,その思想構造として,宣長の孔子観が学統をめぐる思索と関わっていると指摘する。江戸時代において,「漢意」としての文字や書物を学問の対象とせざるをえないという宣長の知的環境及び抗いこそが,新たな思想の模索を生み出すという観点は,新たな方法的知見だろう。第二部「『古事記伝』における「名」の注釈」では「正名」をめぐる言説との関係を通じ,宣長の描いた古代観を『古事記伝』の読みに即してその古代観へと問いを広げてみせた。

クロスカルチュラルな主題設定は,宣長の孔子観の問題や『古事記伝』における「名」の問題を分析対象とする行論によって説得的に展開される。本書は宣長像の読み直しを迫るとともに,膨大な研究蓄積をふまえた労作でもある。近世思想史研究全体にもさまざま示唆を与える著作という点でも授賞作品にふさわしいものといえるだろう。

奨励賞所感(東京大学大学院)廖 嘉祈

このたび,拙稿「「除奸」と「殉難」の間――水戸学者・豊田天功と吉田松陰における楊継盛受容――」を日本思想史学会奨励賞にご選出いただき,大変光栄に存じます。指導教員の高山大毅先生や,審査に当たってくださった先生方をはじめ,関係者各位に心よりお礼申し上げます。

拙稿は,十九世紀を生きた水戸学者・豊田天功や尊攘志士の代表格とされる吉田松陰が,それぞれいかなる形で,楊継盛という明代の士大夫に共鳴したのかを探究したものです。「陰謀・心術」の暴露に対する天功の飽くなき関心は,水戸学派内部において理解されておらず,また松陰にも継承されなかったというのが,その結論です。

明治維新の発生を,「西洋の衝撃」という外圧だけではなく,儒学的素養の浸透を通じて説明することが近年増えてきています。しかし,たとえば平田国学をめぐる活況と比べた場合,江戸後期における儒学の社会的機能に対する研究の解像度が,いまだ大きく後れを取っていると言わざるを得ません。こうした状況を変えるためには,「理・気・心・性」といった儒学の教義内容に密着する,または「主体性」を想定するアプローチではなく,別個の視点から設定したそれが必要であると考えています。拙稿が,『楊椒山全集』の和刻に代表される天功の「忠臣顕彰」活動を取り上げたのも,以上の問題意識を念頭においてのことでした。

拙稿を執筆していた頃,コロナ禍の終わりがいまだ見えていませんでした。種々の制限があるなかで,なおも資料調査を多く行えたのは,幸いなことでした。学部時代,宋元版唐本の字様に魅せられて,書誌学を専攻しましたが,いま思えば,それが自身の研究のあり方を少なからず形作っているように感じます。日本全国に散在する資料を訪れ,興味深いものに出会えた際の感動には,名状しがたいものがあります。単なる蒐書趣味に流れてしまわないように,すでにかき集めた資料と向き合う時間をもっと取らなければと,最近ではしばしば自戒しているほどです。

このような楽しい資料調査を織り交ぜながら,いつの間にか,来日してから六年も経ちました。この間,近世日本思想史の魅力を少しずつ感じられるようになったのは,ひとえに,日頃からご知見を惜しみなく披瀝してくださる先生方や学友たちのおかげです。いまだ駆け出しの研究者であり,未熟な点も多々ありますが,今回の受賞を励みとして,引き続き精進してまいります。今後とも皆様のご指導をどうぞよろしくお願いいたします。

受賞に際しての所感(東北大学大学院)増田 友哉

この度は拙稿「平田篤胤の語る大和魂――理想的心性における雅と武の統合――」を第17回日本思想史学会奨励賞(論文部門)にご選出いただき,とても光栄に存じます。また,選考の労をとってくださいました委員の皆さまをはじめとする関係者の皆さま,指導をしてくださっている佐藤弘夫先生,片岡龍先生,引野亨輔先生に心からのお礼を申し上げます。

拙稿は平田篤胤が当代社会において,どのような理想的な生き方や心性を人々に要請したのかを検討し,それがどのような神話解釈によって根拠づけられたのかを検討することを目的としたものです。またそれが講釈という受け手を想定したスタイルによってなされるという点から,篤胤と民衆が共有する化政期以降の社会が内包した違和や不安を摘出することも,もう一つの目的でありました。

本居宣長から篤胤へという国学思想の流れを考える時,神話的起源を持たされた宇宙観や当為が直接民衆へ語られるようになったという点は,日本思想史上見過ごせない重要な点であると考えています。近代国家の天皇制イデオロギーや王権神話を受け入れる素地となるような近世国学の言説が,どのような形で近世後期社会を生きる民衆へと浸透し受容されたのかについての研究に,今後も取り組み続けたいと考えています。

授賞式でも述べさせていただきましたが,2019年に大学院へ進学した私にとって研究生活の大部分がコロナ禍によって占められていました。その間,学外との交流がほとんど無い中での研究生活とならざるを得ませんでしたが,そのような状況の中で日々真剣に取り組んだ研究が評価頂けたこと,率直に嬉しく存じます。また,コロナ禍が去った今,研究を通じて会員の皆さまと対面での議論や交流が出来ることの有難さを実感しております。今後も皆さまにおかれましては,ご指導ご鞭撻のほど,どうぞよろしくお願い致します。

受賞コメント(広西大学)河合 一樹

この度は拙著『大和心と正名――本居宣長の学問観と古代観』に第17回日本思想史学会奨励賞を賜り,大変光栄に存じます。本書や元となった博士論文の執筆時から内心で憧れ目標としてきた賞ですので,とても嬉しく思っております。審査にあたっていただいた先生方をはじめとして関係者各位に厚く御礼申し上げます。

拙著はその題目が示す通り,江戸時代における「正名」の思想史を踏まえながら本居宣長の思想について考察したものです。「正名」はもともと『論語』子路編に出てくる言葉ですが,江戸時代には独特の仕方である種の流行語となりました。中国と日本の事物や制度などを比較して「名」を「正」すことが様々な人々によって主張されました。その議論には儒者だけではなく国学者も関わっており,宣長も数は少ないながらも「正名」に言及しています。その点に注目することで,儒学と宣長との関係を見直そうというのが拙著の最も大きな構想です。

宣長の思想についての主な論点としては,第一には宣長が儒学を否定しながらなぜ孔子のみは高く評価したのかという孔子観の問題です。拙著では宣長が『玉勝間』において「正名」についても肯定的に言及していることに注目し,同時代の様々な言説との関係も踏まえた上で,宣長が自らの学統を構築する際に,一つの学問の理想として孔子を組み入れたのではないかと論じました。

第二には『古事記伝』における「名」を巡る注釈を取り上げました。宣長は「名」について允恭記の「盟神探湯」の段を見るように参照指示していますが,その箇所はこれまであまり注目されてきませんでした。そこでの「諱」や「氏姓」といった事柄についての注釈は,江戸時代における「正名」の議論と様々な仕方で関りながら,宣長が描いた古代日本の社会秩序とそれに対応する「名」の在り方を示すものになっています。

拙著が世に出て既に一年半が経ちましたが,未だに充分に考え切れていないと思う部分や新たに気づいた課題なども色々とあります。今回の受賞を機として,拙著の議論をより深めるとともに,より大きな研究へと発展させられるよう今後も頑張っていきたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。



第18回 日本思想史学会奨励賞募集要領 (2023年12月1日、日本思想史学会)

こちらをご覧ください。

日本思想史学会奨励賞選考規程(2020年11月7日最終改訂、評議員会)

こちらをご覧ください。

編集委員会より

『日本思想史学』第56号掲載論文の投稿を,下記の要領にて受け付けます。「投稿規程」に沿わない原稿は,査読の対象外とすることがありますので,規程を熟読のうえご投稿ください。多くの投稿をお待ちしています。

〈投稿規程〉

こちらをご覧ください。

大会委員会より

2024年度大会は,2024年11月9日(土)・10日(日)に筑波大学筑波キャンパス(春日エリア)(茨城県つくば市)を会場として開催します。ただし,日程や場所については変更の可能性がありますこと,あらかじめご承知おきください。変更がある場合には公式ウェブサイト等で速やかにお知らせいたします。

なお,2024年度大会での発表を申し込める者の資格は次のとおりといたしますので,ご留意ください。

〈2024年度大会発表申込資格について〉

2024年度大会において発表の申し込みができる者は,2023年度(2023年10月〜2024年9月)分までの会費を完納した会員,または2024年4月末日までに日本思想史学会事務局へ入会申込書を提出し,その後に総務委員会による入会承認を得て,発表申し込みまでに2023年度分の会費を納入した新入会員とする。上記の申請資格を持たない者からの発表申し込みは、一切受け付けない

「思想史の対話」研究会について

「思想史の対話」研究会は,日本思想史学会の若手研究者間の交流の促進を主な目的として,2015年9月に始まって以来,気鋭の研究者の自主的な企画を続けてきました。次回で第10回を数えます。

新年度の「思想史の対話」研究会運営委員は,松川雅信さんが退任し,代わって渡勇輝さんが着任しました。これにより2023年度の同運営委員会は,
     ロバート・クラフト,長野邦彦,渡勇輝
の3氏で構成されます。

開催の日時,方式,企画内容については追ってご案内します。ご期待ください。

なお,次回第10回の節目をもちまして本研究会はいったん終了となります。将来に向けて名称や開催形態などを見直し,新たな交流のあり方を検討していきます。

総会報告

2023年11月11日(土)に開催された2023年度総会において,下記の事項が承認または決定されましたので,お知らせいたします。

【2022年度事業報告】

総務委員会(会長)
編集委員会(2022-23年度編集委員長)
大会委員会(2022-23年度大会委員長)
事務局

【2022年度決算報告・会計審査報告】(事務局長・監事)

【2023年度事業計画案審議】(事務局長)

【2023年度予算案審議】(事務局長)

【事務局移転にともなう会則付記の改正】(事務局長)

【監事の交代】(会長)

【ハラスメント研修会の企画】(会長)

【第17回日本思想史学会奨励賞授賞作品発表】(会長)

【学会現況】(2023年10月1日時点)

【2022年度決算】
《収入》
  決算額 予算額
会費収入※ 2,936,633 2,636,000
刊行物売上金 87,780 70,000
前年度繰越金 4,491,582 4,491,582
その他 * 283,177 10
7,799,170 7,197,592
《支出》
  決算額 予算額
大会開催費 2023年度分 400,000 400,000
学会誌発行費 第55号 1,004,047 1,000,000
事務局費 114,586 300,000
HP管理費 69,880 70,000
「思想史の対話」研究会開催費 # 100,000 100,000
委員会経費 0 200,000
幹事手当 600,000 600,000
予備費 4,527,592
次年度繰越金 5,510,659 -
7,799,172 7,197,592
※「会費収入」から,海外在住会員について決済業者の手数料が差引かれたため,端数が生じる。
*「その他」収入には,2022年度開催校からの返却金283,159円を含む。
【2023年度予算案】
《収入》
会費収入 2,810,000
刊行物売上金 70,000
前年度繰越金 5,510,659
その他 10
8,390,669
《支出》
大会開催費 2024年度分 400,000
学会誌発行費 第56号 1,200,000
事務局費 300,000
HP管理 70,000
「思想史の対話」研究会開催費 100,000
委員会経費 200,000
幹事手当 600,000
予備費 5,520,669
8,390,669
※ 本学会の会計年度は 10月1日 〜 9月30日です。

役員の異動

2023年11月11日(土)に開催された2023年度評議員会において,事務局の移転と,それにともなう役員の異動が,下記のとおり議決されました。

新入会員

≪個人会員≫

受贈図書

会費納入のお願い

2023年12月26日に請求書を郵送しましたので,会費の納入をお願いします。払込用紙が見当たらない場合は,下記の口座に払込ください。払込料金はご負担いただいております。

                      ゆうちょ銀行
                      振替口座記号番号: 00920-3-196013
                      口座名称(漢字): 日本思想史学会
                      口座名称(カナ): ニホンシソウシガッカイ

※当会の会計年度は,10月1日〜9月30日です。したがって,2023年度は2023年10月1日〜2024年9月30日となります。ご承知おきください。

※3年をこえて会費を滞納された方は,会則第4条に基づき,総務委員会の議をへて退会扱いとなります。

※2020年度請求分より年会費に一部変更があります。

となっております。ご注意ください。

※ゆうちょ銀行は,2022年1月17日より一部料金を値上げしました。窓口でもATMでも,会費の払込を現金支払いにしますと加算料金110円がかかります。ご注意ください。通帳またはキャッシュカードを利用して,ご自分のゆうちょ口座から支払う場合は,料金に変更ありません。詳しくは郵便局・ゆうちょ銀行までお尋ねください。

事務局より

@連絡先の変更,学会へのお問い合わせ等は,事務局宛に電子メールまたは郵便(葉書・封書等)でご連絡ください。電話・FAXは受け付けておりません。

A当学会では会員メーリングリストを運用しております。下記の方々は,ご確認ご検討のほど,よろしくお願い致します。
 (1)名簿にメールアドレスを登録されていない方
  ・メール受信をご希望の方は,下記の事務局アドレスまでお知らせください。
  ・電子メールやインターネットを使用されない方は,従来どおりの郵送希望を受け付けます。その場合,下記の事務局住所まで,
   郵送希望の旨,郵便(葉書・封書等)でお知らせください。
 (2)名簿にメールアドレスを登録済みだが,受信できていない方(受信した覚えがない方)
  ・「迷惑メールボックス」に入ってしまっている恐れがあります。
  ・受信自体を拒否されている場合もあります。今一度,設定をご確認ください。必要に応じて再登録を行いますので,下記の事務局
   アドレスまでお知らせください。
 (3)現在受信しているメールアドレスをあまり利用していない方
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