1日めの公開シンポジウム「思想史の問い方−二つの日本思想史講座をふまえて−」は、思想史研究の方法論をテーマとした企画であった、日頃、方法論について無自覚である私にとって、たいへん有意義なものであった。中世思想を研究している持つ身にとって、末木文美士氏に対する森新之介氏のコメントが興味深かった。末木氏の「儀礼」ことに宗教儀礼の側面から「近代に回収されない中世」を見いだす発言に対して、森氏のコメント、親鸞・道元などの脱儀礼の宗教、あるいは清原宣賢の四書研究、また中世後期の五山での朱子学研究など、近世や近代につながる理への信頼の登場こそ、注目すべき点であるという指摘に共感した。近接の多彩な分野の研究が取り込まれたことによって、理論の分析が欠落する傾向が見られ、それが中世思想研究の問題だという森氏の発言は興味深かった。
2日めは、中世以前の思想を対象とした研究発表が第四部会の1会場だけであった。そこに参加しながら、昨日のシンポジウムの議論を思い浮かべていた。中世以前の発表が少ないのは、仏教学会や宗教学会や日本史系の学会などさまざまある中で、この日本思想史学会でしかできない議論の方向がいま一つ定まっていないからかもしれない。この学会が、仏教だけでなく、儒教なども含め、宗教に偏らない中世における知のあり方の全体像を探り、中世固有の思想の論理を明らかにし、その意義を探るというオーソドックスな議論ができる場であってほしい、最近の近接分野との融合的な試みも評価はするけれど、などとりとめもなく考えていた。
早稲田大学ゆかりの津田左右吉の草稿、服部南郭資料の展示もたいへん見応えのあるものであった。都心なのに36号館から見た外の景色は緑深いものであった。開催校のご努力にはたいへんなものがあったと思う、心より感謝しながら会場をあとにした。
第9回日本思想史学会奨励賞は、例年通り、ニューズレターおよびホームページを通じて公募を行い、応募は単行本著作1点であった。それに学会誌『日本思想史学』第46号掲載論文で資格規定を満たした論文のなかから、同誌編集委員長の推薦になる論文2点を加え、合計3点を対象に選考を行った。
選考委員による査読結果にもとづいて第一段審査を行い、その結果にもとづいて、委員全員で慎重に審査を行った結果、全会一致で、上記著作への授賞が決定した。
黒川氏の論文は、1920年代のなかばから後半にかけて、日本人・朝鮮人・中国人の共産主義者が協同し、帝国主義的支配に抗するネットワークが一時的に生まれ、それが解体してゆく様子を明らかにした力作である。1920年代から30年代にかけての東アジアに関して、国境をこえる反帝国主義運動が展開してきたことは、近年の社会運動史研究で注目されているテーマである。この論文は、そうした共産主義者の協同関係のなかで、野呂栄太郎など日本の共産主義者も植民地支配に関する反省を深めるようになり、それがのちの「講座派」理論の形成にもつながることを解明した。単に運動史の叙述にとどまらず、昭和初期の日本思想史の研究に重要な知見を提供した論文として、本論文は学会奨励賞にふさわしいものと判定する。
本書は頼山陽を政治理論家として描いた意欲的な著作である。これまで山陽といえば、尊皇討幕家、文人、歴史思想家と評価されてきたが、本書は決断と責任の政治理論を説いた思想家、「日本における政治学の誕生」を告げる思想家という新たな山陽像を提出した。本書は、『通議』の「勢」「権」「機」「利」を政治学の概念としてとらえ、『通議』を「天下の勢」を制御する政治力学の書として解釈する。そのうえで、山陽が決断と責任を担う君主の政治理論と徳川政権の正統性を論じていることを明らかにした。本書は、勢いのある叙述によって、われわれに「政治学」とは何か、政治理論とは何かについての根源的な問題を突きつけている。ときに演繹的な叙述も見られるが、山陽の思想の一断面を浮かび上がらせたことは高く評価できる。よって、本書は学会奨励賞にふさわしいと判定する。
このたびは、拙論「一九二〇年代日本思想史と第一次国共合作」(『日本思想史学』第四六号)に、日本思想史学会第九回奨励賞を授与いただき、まことに恐縮しております。
神戸大学大学院総合人間科学研究科博士前期課程に、「歴史学を学びたい」という思いで社会人入試により進学したのが二〇〇三年春のことでした。大学は理系で、卒業後も設計職についていたため、文系科目は全くの門外漢であった私を辛抱強くお導きくださった神戸大学の安井三吉先生・須崎愼一先生・宇野田尚哉先生の学恩に、深く感謝申し上げます。また、幼稚園の延長保育を利用して通学していたため、いつも五時近くまで幼稚園で私を待っていてくれた長男(中学三年生になりました)にも感謝しています。
拙論の原型となったのは、先生方の厳しくも温かいご指導のもと、二〇〇六年一月に提出した修士論文です。博士後期課程進学後は、冷戦体制の崩壊後に公開されたコミンテルン文書による第一次日本共産党史の研究に取り組んでいたため、苦労して書き上げた修士論文を長く放置したまま、気づけば七年が過ぎましたが、博士論文を元にした拙著『帝国に抗する社会運動―第一次日本共産党の思想と運動』(有志舎、二〇一四年)を執筆する過程で、あらためて修士論文が私の研究の原点であったことに思い至りました。安井先生からの「修士論文はどうなったの」という励ましにも後押しいただき、ようやくまとめた拙論を学会誌にご掲載いただいたうえ、このような立派な賞も頂戴することになり、「人生何が起こるかわからないな」というのが正直な思いです。
私自身の研究関心は、思想史と社会運動史の交点に立ち、戦争と革命の時代であった二〇世紀の東アジアを生きぬいた多様な人々の生の痕跡から、〈生きられた運動経験〉による思想構築の過程を跡づけることにあります。今回の受賞を力として、今後とも地道に研究を続けてまいりますので、ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます。
拙著『頼山陽の思想 日本における政治学の誕生』に対し、日本思想史学会第9回奨励賞をいただけたこと、感謝致します。
本学会だけでなく、日本政治学会・日本歴史学会そして共同通信でも書評をいただき、拙著で展開した山陽の政治理論はご理解いただけたようで、安心しております。拙著にとって重要な所はあくまで第二章の山陽の政治理論であり、想定読者は日本思想史以外に一般政治理論を研究する人々も含みます。それはまた、ヨーロッパ以外からも普遍性を持つ政治理論は誕生していた、と表明する狙いでした。拙著は広く取れば政治学の研究書で、細かくいえば最初の「日本政治理論史」のそれです。元の博士論文の題名を『「君主」と「正統」』としたのも、そうした意図です。
今大会のシンポジウムで、「日本思想史」なる領域がいかなるものか、も語られました。高山大毅氏の文学史学中国哲学に政治学などの「入会地」的性格がある、という意見は強く同意するものです。複数の専攻を渡り歩いた私自身、「独り入会地」とでもいうべきものでしょう。しかし、国文・中哲に飽き足らず、たどり着いた政治学に於いて、それまでの技術(漢学の知見・読解力)を活用した、というものです(それは「日本思想史」学とまで言えるのでしょうか?)。
拙著に対し、山陽の思想の受容をやって欲しい、終章の続編を書いて欲しい、という感想が多く寄せられました。第二章への反響が中心では無かったことが、私にとって最大の驚きで、ある意味、山陽の驚きを追体験したかの感もあります。とはいえ、拙著に著者の目論見以外のものを見いだされたとも言えましょう。
そうした薦めもあり、これから山陽の学問が幕末明治にどんな影響を与えたか、を検討していきます。政治学としてですが、それが「日本思想史」という「入会地」をより豊かなものにすると信じて、やっていきたいと思っております。
こちらをご覧ください。
こちらをご覧ください。
『日本思想史学』第48号掲載論文の投稿を、下記の要領にて受け付けます。「投稿規程」に沿わない原稿は、査読の対象外とすることがありますので、規程を熟読のうえご投稿ください。多くの投稿をお待ちしています。
こちらをご覧ください。
2016年度大会は2016年10月29日(土)・30日(日)に関西大学(大阪府)を会場として開催されます。
大会シンポジウムの内容、パネルディスカッション・個別発表の受付等については、ニューズレター夏季号(7月発行予定)でお知らせするとともに、会員の皆さまには郵便にて直接ご案内申し上げます。
2015年10月17日(土)に開催された2015年度総会において、下記の事項が承認または決定されましたので、お知らせいたします。
(予算) | ||
会費 | 2,843,800 | 3,265,200 |
刊行物売上金 | 45,528 | 80,000 |
前年度繰越金 | 4,093,072 | 4,093,072 |
その他 | 216 | 0 |
計 | 6,982,616 | 7,438,272 |
(予算) | ||
大会開催費 | 500,000 | 500,000 |
学会誌発行費 | 1,214,568 | 1,200,000 |
通信連絡費 | 277,878 | 400,000 |
事務費 | 154,535 | 300,000 |
事務局費 | 213,178 | 400,000 |
HP管理費 | 59,914 | 150,000 |
委員会経費 | 390,710 | 350,000 |
幹事手当 | 180,000 | ― |
予備費 | ― | 4,138,272 |
次年度繰越金 | 3,991,833 | - |
計 | 6,982,616 | 7,438,272 |
会費収入 | 3,377,700 |
刊行物売上金 | 80,000 |
前年度繰越金 | 3,991,833 |
その他 | 0 |
計 | 7,449,533 |
大会開催費 | 500,000 |
学会誌発行費 | 1,200,000 |
通信連絡費 | 400,000 |
事務費 | 200,000 |
事務局費 | 400,000 |
HP管理費 | 80,000 |
委員会経費 | 350,000 |
幹事手当 | 360,000 |
予備費 | 3,959,533 |
計 | 7,449,533 |
題 目:「国学」研究の現在―学問領域の越え方―
日 時:2016年4月23日(土)14:00〜17:30
会 場:駒澤大学
申込み:不要
「国学」は、自己をとりまく諸々の枠組―言語・歴史・習俗など―を問い直し、江戸期の思想・文学・宗教をはじめとする諸領域に大きな足跡を残した。自己ならざるものを排除する身振りをともなったものの、「国学」者の「問い直し」は、今なお我々を深い思索へと導く。日本思想史研究において、「国学」研究は、村岡典嗣『本居宣長』以来、重要な焦点であり、他の学問領域と相互に影響を与えあいながら展開してきた。現在、細分化を余儀なくされつつあるものの、今後の学際研究のあり方を模索する上で、豊かな可能性を有する分野と言える。
第2回「思想史の対話」研究会では、政治思想史・日本文学・日本史という異なるディシプリンから「国学」研究に取り組む気鋭の研究者に、「「国学」研究の現在」を報告して頂き、今日の諸々の学問領域をとりまく枠組を「問い直し」、新たな「対話」の方途を探ることを目指す。
江戸思想史の専門家だけでなく、「学問領域の越え方」に関心のある様々な領域の研究者に参加頂けると幸いである。
報告者:相原耕作(明治大学)、青山英正(明星大学)、三ツ松誠(佐賀大学)
※会場など研究会の詳細につきましては、日本思想史学会のHPに、改めてご案内致します。
※「思想史の対話」研究会は、若手研究者の交流と議論の活性化を目的として、日本思想史学会総務委員会による運営のもとで、今年度から始まった研究会です。来年度は、2〜3回の開催を予定しております。
「思想史の対話」研究会幹事
高山大毅、板東洋介、水野雄司
当会ホームページの「会員研究業績紹介」欄に載せる会員諸氏の研究業績を、学会事務局までE-mail、或いは葉書でお知らせください。その際、著者名(ふりがな)、論文・著書名、掲載誌(号数)、発行所、刊行年月をご明記願います。
会員である下記の方が逝去されました。謹んで哀悼の意を表します。
会費納入状況は依然として芳しいとは言えません。学会の安定した持続のためにも、会費納入をよろしくお願いします。会費を納入する際には、同封した振込用紙をお使いください(大会事務局は別口座になります・ご注意ください)。なお紛失した場合は、下記の口座番号にてお振り込み下さい(※注意:事務局移転に伴い、口座番号が変更となりました。旧口座はすでに閉鎖されており、2013年度以前に前事務局より発行されました振込用紙を用いての会費納入はできません。十分ご注意下さい)
(ゆうびん振込口座)3年をこえて会費を滞納された方は会則第四条に基づき、総務委員会の議をへて退会扱いとさせていただくことがあります。過去2年分の会費を滞納された方には 学会誌『日本思想史学』の最新号第47号(2014年度分)および諸種の案内をお送りしておりません。会費納入の確認後に送らせていただきます。
請求年度以降の会費をまとめて納入していただいても結構です。
※当会の会計年度は、10月1日〜9月30日となります。
したがって、
2013年度:2013年10月1日〜2014年9月30日
2014年度:2014年10月1日〜2015年9月30日
2015年度:2015年10月1日〜2016年9月30日
となります。ご承知おきください。