News Letter No.9(冬季号) 2008年12月1日

学会の活性化を目指して―会長再任にあたって(会長 辻本雅史)

学会会長職をさらに2年、務めさせていただくことになりました。よろしくお願いいたします。

2年前、心の準備もないまま出発しましたが、この間に痛感したこと、それは先輩方が築いてこられた学会を、着実に継承していくことの重要さです。それはいうまでもないほど当たり前のことですが、実際にはそう簡単なことではないことも実感いたしました。大会の着実な開催、水準を維持した機関誌の発行、会報やHPによる学会情報の発信、会員異動の正確な把握、突発事への適切な対応等々、いずれも学会の基本です。

こうした学会の基本部分は、この2年間、大会委員会と開催校実行委員会、編集委員会、それに学会事務局とが、それぞれ見事に各役割を遂行してくださいました。もし大過なく学会が動いてきたとすれば、この方々のご努力のたまもの以外の何ものでもなく、まことに敬服の至りです。とりわけ学会事務局の土田健次郎事務局長、阿部光麿幹事はじめ、早稲田大学スタッフのお仕事ぶりは完璧で、私は多くのことを学ぶことができました。3年間の事務局のお仕事に、最大限の敬意と感謝を申し上げます。

こうした中、私は会長として何をしてきたのか、いま自問しているところです。それはこれからの2年何をなすべきか、それへの自問でもあります。大事なことは、たぶん大局的見地から適切な方向性を見いだし、適切な改革を、関係各位のご協力のもと、推進していくことだと思われます。この意味で、本学会の基本的課題は、2年前に申し上げた通り、学会員の拡大と国際化でありましょう。本学会は、制度的基盤が弱い分、学問領域を異にする多領域の会員によって構成されている「強み」を持っております。何らかの意味で、日本思想史に関心をもつ研究者は、現会員の数倍はいる、いや数千人はいる、との説もありますが、あながち誇張ではないでしょう。知恵を出すときだと思います。

ここで「国際化」というのは、日本思想史を日本の内部に閉じた研究にしてはならないとの含意があります。外からの眼による研究は、近代の造形になる「日本」概念を相対化し、研究対象としての日本思想史の可能性を大きく広げていくはずです。外国人会員を増やしたいとの意味だけではありませんが、外国人会員拡大がその契機になることもまた事実です。外国の日本研究機関との連携や国際シンポジウムも大いに意味があります。しかし留学生会員に、もっと目を向けることは直ちに可能な基本事項だと思います。留学生会員は、帰国後、退会される場合が少なくありません。

この背景には、会費納入方法の問題もあるように思われます。現状では、外国からの会費納入は容易ではありません。この点を考慮して、会費納入方法の改善、たとえば口座振替やクレジットカードの利用などがいま検討されております。この問題は本学会の財政難の一因をなす会費納入率の改善にも確実に有効です。

学会奨励賞は創設から2回を重ねましたが、応募者の増加策が期待されます。推薦書2通を付した自薦形式の応募がハードルを高くしている、との意見もあり、改善に向けた議論もなされております。ただもう少し回を重ねてみたいところもあります。

その他、学会は若手研究者の研究発表の場として、現在のところ有効に機能しております。しかしその反面、中堅層の先端的研究、たとえば科学研究費基盤AやBなどで活躍している会員の研究成果が十分に反映されていない、とも指摘できます。パネルセッションの位置づけやその成果の機関誌への取り込みなど、取り組むべき課題は少なくないと思います。

学会の活性化は、会員の研究の活性化につながり、それがさらに学会を刺戟することになります。良い意味でのこの循環を目指して、どうぞ、学会と研究の発展に向けての、格段のご協力をお願いいたします。

2008年度日本思想史学会大会報告(渡辺和靖・前田勉)

秋晴れのもと、2008年度日本思想史学会大会が10月18・19日(土・日)に、愛知教育大学で開催されました。初日は、松田正久学長の主催校挨拶の後、「戦前と戦後―思想史から問う」というテーマで、シンポジウムが開かれました。米原謙、植村和秀両氏の刺激的な報告と、苅部直氏、菅原潤氏の鋭いコメントがあり、会場からも質問が出て、活発な討論がなされました。今回は、論争的な難しいテーマであったため、事前に、報告者とコメンター、それに大会実行委員会のメンバーが打ち合わせをしました。予算等の配慮が不可欠となりますが、次回以降も、シンポジウムの成果を上げるために、準備会の必要性を感じました。

翌日は、若手・中堅研究者を中心に、31の個別発表とパネルセッション1つが行われました。今年度の大会は、古代・中世が5、近世が14、近現代が12で、各時代、ほぼバランスがとれていて、好ましいことだと思います。また附属図書館では、チェンバレン文庫の特別見学(学会員のみ)を催しました。ご承知の通り、『古事記』を英訳したチェンバレンは、わが日本思想史学にとっても、深い因縁があり、展示された自筆書簡に驚嘆の声をあげる人もいました。シンポジウムを含めた参加者は179人(このうち、一般参加者は44人)で、例年以上に盛況な大会となり、大会主催校として嬉しい限りです。不行き届きの点も多々あったかと思いますが、この場をかりて、お礼申し上げます。

2008年度大会(愛知教育大学)参加記(松田宏一郎)

本大会は政治思想研究への関心が高まっていることを印象づけた。初日のシンポジウムでは、米原謙氏がアメリカの存在を戦後の価値意識の構造を映す鏡として扱い、植村和秀氏は西洋での時間と存在の認識枠組みの変容が同時代的に日本に波紋を生み出していたことを論じた。「日本」思想史を二〇世紀思想史の世界的潮流の中で検討するということが必要なものと認知されてきている。筆者は政治思想分野出身なので、むしろ政治学とは異なる学問的ディシプリンや問題関心からこのような傾向にどのように対処する、あるいは立ち向かっていくのかという点が気になるし、また関心がある。

こういった学問分野の大きな状況の動きとは別に、筆者は若手のぎこちないが熱意のこもった研究発表に日本思想史学会の良さがあると考える。時間の制限も厳しく、学問的なプレゼンテーションに十分に習熟してはいないながらも、ここだけは自分しか本気で調べた人はいないという気概のこもった報告から学ぶところは多い。言うまでもないが、できるだけ速やかに問題の本質に切り込み、簡潔で筋のとおった説明によって、当該問題や史料に詳しくない聴衆にも一定の理解や関心を生み出す工夫が必要である。なぜその思想家、そのテクストを論じなければならないかという点を示さず、研究史を単になぞったり、自分が調べ切れていないことや既に言われていることの説明に貴重な時間を使ってしまっている報告もいくつか見られた。

筆者は近世・近代に関する報告を中心に聞いたが、近代をやるなら同時代の西洋と中国・朝鮮についてのやや踏み込んだ土地勘をもっている必要があると思う。日本思想史研究・教育のプログラムにどのように比較思想的な内容を組み込んでいくべきか、本学会として考えていくべきであると思う。海外出身で日本思想を学びたくて本学会に参加している若手が増えていることは良い傾向だが、だからこそ印象論ではなく方法的に比較の視座を組み込むことを検討すべき時期に来ている。

事務局長の任を終えて(土田健次郎)

この3年間、本学会の事務局長を務めてまいりましたが、本年10月の大会をもって、東北大学の佐藤弘夫会員に交替いたしました。立命館大学の桂島宣弘会員からバトンを受け取り、何とか次に手渡しできました。会員諸氏のご協力に心から感謝いたします。

平石直昭、辻本雅史両会長のもとに事務を担当したわけですが、日常業務をこなすのみならず、両会長が図られた学会の体制強化や、新たな展開への布石に対してお手伝いできたことは喜ばしく思っております。今度は本学会の誕生の地東北大学に事務局が移ります。各地で経験を積んだ若者が帰郷するようなものでしょうか。今後、成人した学会としてのいっそうの発展を期待しております。

日本思想史学の内容はまことに多様で、種々の学問領域が交錯する場所だということを今回の業務を通して、改めて実感いたしました。使用する資料も方法論も多様で、それゆえ個々の研究に対する評価も一律ではなく、それがともすれば会員同士の感情的軋轢にもつながりかねません。このような状況の中で自由に意見が言え、建設的な議論ができる場としての学会を運営していくということは、口で言うのは簡単ですが、実際にはなかなかの難事だと思います。それを実現するには、本学会における発表を聞き論文に目を通さなければ日本思想史研究の最前線に立てない、という定評を確立することです。否応なしに本学会に関わらざるをえないという状況があれば、退会者も減り、入会者も増えると思います。翻って会員を増加するということ自体、定評の確立に資するものです。またそれは財政の安定にもつながります。学会運営は基本的に会費収入でまかなうからです。

全国には本学会の会員数の何倍もの日本思想史研究者がいます。たとえば日本仏教研究者や神道研究者で本学会に入っていない人は相当の数にのぼります。また日本中国学会をはじめアジア関係の学会会員の中には日本思想史研究にも手をのばしている本学会未入会者がかなりいます。その他、日本史や日本文学、さらには考古学、民俗学、政治学、経済学、社会学などなど、可能性を考えればきりがありません。つまり本学会はまだまだ伸び幅があるということです。

ところで先に研究の最前線と言いましたが、そこから想起されるのは新しい方法論での斬新な研究ということでしょうか。私はもちろんその意義を認めるのにやぶさかではありません。本学会には、異分子を取り込むことを恐れず、方法論自体を常に鍛えようとする姿勢を常日頃から期待しております。ただこの場を借りてあえて言わせていただくと、原典の着実な読解を基礎におく堅実な研究の蓄積も、まだまだ不足しているように思えます。そのような発表や論文も、本学会から陸続と発信されることを望んでおります。

今回の任期中は、勤務校の役職のため毎日業務に追いまくられ、あまつさえ手術して入院することもありました。私は事務局長ではありましたが、実際には幹事の方たち、特に阿部光麿幹事には大変ご活躍いただき、何とか任期まで勤められたという形です。私も以前、日本中国学会と日本道教学会という二つの全国学会の幹事を務め、学会事務については多少は慣れているつもりでしたが、阿部幹事の仕事ぶりには驚嘆いたしました。身内のことで恐縮ですが、最後に記させていただきます。

新事務局より(佐藤弘夫)

本年10月より、日本思想史学会の事務局は早稲田大学を離れて、東北大学へと移りました。これから3年間、事務局は東北大学大学院文学研究科の日本思想史研究室に置かれることになります。事務局長は同研究室の佐藤弘夫です。また実務の統括者は、学会の幹事であり研究室助教の大川真君です。

これまで3年にわたって事務局をお引き受けいただいた早稲田大学では、事務局長の土田健次郎先生の卓越したリーダーシップとご努力で、学会運営に関する事務システムが飛躍的に改善されました。また幹事として土田先生を献身的にサポートされた阿部光麿さんの存在も、きわめて大きいものがありました。この期間に実現した業務の改善は、たとえ事務局は移っても今後長きにわたって、学会にとっての大きな財産となることはまちがいありません。お二人をはじめとする早稲田大学の旧事務局の皆さまの、これまでの学会運営に対するご尽力に対し、心より敬意を表させていただきます。

東北大学ではとても早稲田大学のような完ぺきな運営はできませんが、学会発展を支える土台となるべく、精いっぱい努力をしていきたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

近年、どの大学でも目先の業績主義と「効率化」のために、教員の仕事は際限なく増え続けており、事務局探しにはどこの学会も頭を痛めているようです。学会の存在意義そのものが問われる今日ですが、若手研究者のデビューの場として、また地域と分野を超えた研究者の交流の場として、研究が細分化に向かいがちないまこそ、むしろ学会が真価を発揮すべき時代です。

辻本会長はこのたびの再任にあたっての抱負で、日本思想史学会を国際的な研究交流の場としていきたい旨を述べられました。東北大学が事務局として、その実現に多少なりとも貢献できることを願っております。

編集委員会より

『日本思想史学』第41号から投稿規程が一部変更されました。こちらをご参照ください

大会委員会より

2009年度大会は10月17・18日(土・日)に、東北大学(仙台市)を会場として開催されます。

大会シンポジウムの内容、パネルディスカッション・個別発表の受付等については、ニューズレター夏季号(7月発行予定)でお知らせするとともに、会員の皆さまには郵便にて直接ご案内申し上げます。

第2回(2007年度)日本思想史学会奨励賞について(会長 辻本雅史)

本賞選考委員会(総務委員会が兼ねる)において、応募業績3点(うち書籍2点)、および規程によって学会誌『日本思想史学』第38号、39号掲載論文のうち、規程第3条の資格を満たす論文5点(編集委員長からの推薦による)、合計8点の業績を選考対象として選考に当たった。

慎重に審査した結果、「第2回日本思想史学会奨励賞」に該当する受賞作はなしとすることになった。

第3回日本思想史学会奨励賞募集要領(2008年12月1日 日本思想史学会)

「第3回日本思想史学会奨励賞」の選考対象となる業績を募集します。奮ってご応募ください。こちらをご参照ください

寄贈図書

(第8号発行以降寄贈分)

会費納入のお願い

2008年10月をもって日本思想史学会は 2008年度に入りました。なお事務局移転に伴い、振込口座も変更いたしました。請求金額をお確かめの上、 2008年度の学会費を同封の郵便振替用紙にてご納入願います。お支払いいただく金額は同封の請求用紙に記入してあります。

3年をこえて会費を滞納された方は会則第四条に基づき、総務委員会の議をへて退会扱いとさせていただくことがありますのでご注意ください。

過去2年分の会費を滞納された方には学会誌『日本思想史学』第40号(2007年度分)をお送りしておりません。会費納入の確認後に送らせていただきます。

お断り

新入会員一覧ほか、一部ホームページ上の「ニューズレター」には掲載していない情報があります。

日本思想史学会ホームページトップへ