先日,11月7日に開かれた総会において,引き続き2020・2021年度の2年間,会長を務めさせていただくことになりました。過去2年間,多くの方々に学会の業務を支えていただいたことを感謝しつつ,身を引き締めて学会の発展のために努力するつもりですので,よろしくお願いいたします。
2020年度の学会大会と「思想史の対話」研究会は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大をうけて,初めてのオンライン開催を試みました。緊急の慌ただしい措置にもかかわらず,円滑に運営できたのは,大川真委員長をはじめとする大会委員の方々,また尾原宏之さんと会場校の甲南大学,そのほか関係各位による,多大なご尽力のおかげでした。改めて感謝申しあげます。
総会においては,長年の懸案事項であった会費の値上げについて,会員のみなさまのご支持を得ることができました。常勤職に就いておられる方々に関しては,2020年度から会費の額が上がることになります。昨今の大学事情,出版界の状況を考えると,会員の負担の増加は望ましいことではありませんが,学会の安定的な運営のためにやむをえない措置としてご理解いただければと思います。
また本ニューズレターにも再掲しているように,日本学術会議の会員任命拒否をめぐる問題について,当初は総務委員会名,次いで評議員会の名前で声明を発出しました。学会は本来,会員による学問的な研究活動を支え,発展させることを目的とする団体であり,その範囲をこえた事柄について,社会にむけ意見表明をするような行動は避けるべきだと思います。しかし今回の場合は,問題が学術組織の政府権力からの自律に関わるものであること,また本学会に関連の深い分野の研究者が任命拒否の対象となっていたことを考慮し,例外措置として声明を出すことにしました。
新年度についても,本稿の執筆時点ではコロナウイルス禍の終息はまだ見通せず,オンライン開催の可能性も考えながら2021年度大会の開催を計画しなくてはいけない状況です。しかし他面で昨年度の経験から,オンラインでの開催が,海外を含めた,開催地から遠い地域に住む会員や,日常の仕事や家事に追われる会員の参加を容易にするというメリットもあることがわかりました。この経験を奇貨として,大会や「思想史の対話」研究会の開催形態を,より柔軟で開かれたものにできれば望ましいと思います。
なお,2019年度の課題として挙げた諸件のうち,学会の50周年事業の一つ,2017・2018年度の大会シンポジウムの書籍化が,いまだ果たせておりません。ご執筆くださっている方々には,刊行遅延により多大なご迷惑をおかけしてしまい,申し訳なく思います。今年度には刊行するつもりです。
新年度の開始と前後して,事務局が大阪大学(宇野田尚哉研究室)から学習院大学(中田喜万研究室)に変わります。文末で恐縮ですが,旧事務局を担当された方々,これから新事務局を担当されるみなさまに,この場を借りて篤くお礼申しあげます。
まずは,大過なく任期を終えることができましたことにつき,前田前会長,苅部現会長,総務委員各位をはじめ,ご協力を賜った本会内外のすべての方々に,お礼申し上げます。(会誌発行や海外在住会員関係会務などでは,学会外の方々にもずいぶんお世話になりました)。
事務局長を引き受けたとき心に決めていたのは,右から受け取ったものをそのまま左に渡すようなことはしないようにしようということでした。不要な物品は廃棄するという文字通りの意味においてだけでなく,なるべく会務を合理化して次にお渡しするときには無形の荷物も軽くしておこうと考えたということです。
具体的には,懸案であった会誌のリポジトリ化を実現して,同じくその扱いが懸案となっていた会誌のバックナンバーを廃棄したり,海外在住会員関係の会務を外注して海外からの会費納入を可能にしたりといったことをいたしました。また,私が事務局長を引き継いだ時点では,明文の規定は会則,選挙細則,投稿規程,奨励賞選考規程などごく限られたものしかなかったのですが,会務の遂行に必要な申し合わせを煩雑にならない範囲で総務委員会にお認めいただきました。口頭の伝承ではなく明文の規定に依拠して会務を遂行できるようにすることが,合理化の基本だと考えたからです。
事務局といっても,事務局長と幹事しかいません。このうち,総務委員会のメンバーシップを持っていてものごとの決定に関与できるのは事務局長のほうですから,事務局長が幹事に会務を丸投げしてしまうと,幹事は会務を遂行するにあたって前例を踏襲するしかなくなってしまいます。随時会務を最適化するためにも,幹事に過剰な負担をかけないためにも,事務局長の役割は重要なのだと思っています。
私の任期中に果たせなかった課題として,全会員を登録したメーリングリストの作成があります。任期の終わり頃に思い立ちましたが,作成後の管理のことを考えると次期事務局にお任せするほうがよいだろうと考え,先送りにいたしました。電子化・オンライン化による会務の合理化は,今後も引き続き追求していただければと思っています。
最後に,黒川伊織幹事・森川多聞幹事(HP担当)にお礼を申し上げるとともに,会員の皆様に次期事務局への変わらぬご協力をお願いして,退任の挨拶といたします。
前事務局長の宇野田尚哉先生より懇切丁寧な引継ぎをうけまして,学習院大学にて新事務局が始動しました。任務の重さをようやく理解し,遅ればせながら恐れおののき,安請合いしてしまったことを後悔しているところです。不安要素がいくつもありますが,ともあれ,私学の大量の雑用を何とかかわしながら,斯学の発展を下支えしてまいる所存です。
これまでの事務局運営の工夫が込められた先例を忠実に踏襲することの他に,特段の抱負はありませんが,ただ新たな課題として,コロナ禍の中で急速に進んだ情報化を,学会の事務にどこまでとり入れていけるか,今後の見極めが必要になるだろうと予想しております。
新しい事務局幹事の播磨崇晃さんとともに最小限の体制にて業務を遂行します。ウェブ担当幹事の森川多聞さんには引き続きお世話になります。会員の皆さまには,円滑な事務へのご協力を心よりお願い申し上げます。
大会終了直後,事務局より寄稿のご用命がありましたが,まったく筆が進みませんでした。シンポジウム,研究発表,「思想史の対話」の内容は,各司会,登壇者のみなさまのおかげで大変充実したものとなり,その意味で大会は十分に「無事終了」したものといえます。
しかし唯一,会場校(大会実行委員会)にだけは合格点がつけられないという思いが残っています。初日のシンポジウムで,音声上の問題で進行に支障をきたしたことが最たる例です。登壇者はもちろん司会の大谷栄一大会委員に大変な負担をおかけしたこと,参加者の方々にご迷惑をおかけしたことは,まことに申し訳ないというほかありません。いまからすれば,即座にピンマイクを抜いてパソコンの内蔵マイクを使う,ミュート機能を統一的に使うなど混乱を避ける方法はあったと思いますが,なにぶん初めての経験で大苦戦することになりました。会場校には会員が一人しかいないこともあり,準備作業が厳しいものであったことを想起すると,悔悟の念がいっそう募ります。
しかし,すでに申し上げたとおり,内容は大変充実したものであったと考えます。また,2日目の研究発表,「思想史の対話」は,司会,発表者,担当大会委員のご尽力でトラブルを最小限度に防いで進行できました。
Zoomの機能をそのまま使って完全オンライン開催にすればトラブルも少なかったはずですが,無理にご参集いただいたメリットもありました。コロナ禍の2020年にも,日本思想史学会という「場」が続いていることを,たしかに現前させたことです。いまも記憶に鮮やかな大川真大会委員長の苦闘する背中,参加者のご不安を惹起した(だろう)現場の緊張は,そのことを際立たせたといえます。我ながら無責任な感想だと思いますが……。
もう私に挽回の機会はありませんので,次期大会委員会や会場校に今回の経験をお伝えし,来年度の大成功に向けての微力なお手伝いをすることで罪滅ぼしを図っていきたいと考えております。
末尾になりますが,今年度大会にご参加いただいたすべての方々に心から御礼を申し上げます。
2020年度大会は本会はじめてのオンライン開催となった。アーカイブスの観点から,その開催までに至る客観的な記録を,大会委員会と会長,事務局長,総務委員会とのやりとりを中心に以下に付す。なおその他の協議ややりとりを再現すると膨大な量を要してしまい,たとえば大川と尾原大会実行委員長とのメール協議は計153件にのぼり,(もちろん一件につき複数回の往復があるが,それは一々計上しない),大会委員会内部等での記録はここには書かない。
【開催に至る協議等の記録】※2020年4月〜11月大会開催
2020年4月7日(緊急事態宣言の公示日) 宇野田尚哉事務局長から「思想史の対話」への対応と関連して,大会開催方法に関する問い合わせが来る。苅部直会長と総務委員に,「今年度大会は現在のところ通常の開催予定であり,思想史の対話もご準備を進めていただいて構わない。ただし開催校が会場貸出や入構禁止措置を取った場合,もしくは開催校への移動が著しく制限される場合等の非常事態が起こる場合,もしくはそうした事態が起こる可能性が極めて高い場合には,日本思想史学会の内規(正しくは申し合わせ)に基づいた上で判断を行う」という回答を大会委員長の大川からお送りする。
4月8日 尾原宏之大会実行委員長,大会委員会と大川との間でまとめた大会シンポジウムのテーマ案や人選ついて苅部会長と相談。この時点では大会開催時の11月には収束している可能性もあり,対面開催を第一とした想定をしていた。
4月15日 苅部会長と尾原大会委員長,大川との間で開催方式等を協議。
5月20日 臨時大会委員会をテレビ会議にて開催し,コロナ禍や天候に左右されずに開催できる可能性が高いオンライン開催を中心にして,大会開催を検討して早めに準備していくことが様々な観点からもっとも望ましいとする結論に達する。
5月21日 前日の大会委員会の議を承けて,大川から苅部会長,宇野田事務局長に,大会のオンライン開催を提案。宇野田事務局長から,オンライン開催の可能性をふまえて前掲の申し合わせ文書の改定が提案。大会委員会,総務委員会ともに案を承認。
5月23日 苅部会長から拡大総務委員会の全メンバーに,大川からオンライン開催の方式が提案されたことが周知される。
6月13日 拡大総務委員会がテレビ会議にて開催。尾原大会実行委員長,「思想史の対話」石原和幹事も陪席。その場で,発表公募に関して,@8月31日(月)要旨提出締切,A9月半ばに採否通知,B10月25日(日)報告論文提出締切,C11月1日(日)情報トラブルに備えたmp3ファイルもしくはPPTファイルの送付締切,という4点も大川から提案され,原案が承認。
6月15日 拡大総務委員会の決定を承け,会長,大会委員会長の連名で大会をオンライン形式で開催することをホームページで告知。
「この状況下,様々な学会が中止となり,特に若手研究者や留学生の業績発表の機会が少なくなっています。発表の機会を確保するという本学会の方針に鑑みれば,中止という選択肢はとれません。しかし,会場校に集まって行う方式ですと,情勢が不透明な中で準備を進めるのは難しく,大会の直前や当日に急遽中止になるというリスクもあります。開催方式の変更によって参加が不便になる会員の方々もおられることは承知していますが,さまざまな角度から検討した結果,オンライン開催という方針で準備を進めるのが望ましいという結論に至りました。」(「2020 年度大会の開催方式の変更のお知らせ 」より一部抜粋)
7月25日 オンライン開催になると大会特設サイトの設営や更新が例年にない作業量となるため,学会のHP担当幹事,事務局長と話し合い,大会委員会で作業を引き取ることとした。
8月25日 全会員へ大会参加登録フォームをメールにてBCC一斉送信。また学会HPにて登録フォームが送信されたことを告知。
9月6日 宇野田事務局長から総務委員選挙の方式について問い合わせがあり,大会委員会側から,電子形式によって行い,開票,集計を業者が行うことで,秘密性,公正性が担保されるという回答を行う。この方式について宇野田事務局長が提案し,会長,総務委員各位から承認される。
10月5日 大会特設サイトの会員向け公開を開始(前掲のフォームに登録のアドレスに入室のパスワードをBCC一斉送信)。
10月15日 参加登録のリマインドをメールや学会HPで行う。
11月7,8日 甲南大学岡本キャンパスをオンライン開催の配信元として大会が開催。多少の音声トラブルもあったが,心配されていた情報トラブルやスケジュールの遅延もほぼなく,無事に終了。
(その他)
1,事前申し込み人数…会員131名,非会員(思想史の対話参加者)17名
2,大会委員会開催…第1回5/20,第2回6/5,第3回6/30,第4回7/29,第5回10/16
3,事前説明会…11/3,4(発表者,司会),10/30,31,11/5(シンポジウム登壇者)
4,個別発表…19名
今回大会の個人的印象を簡潔に言えば,変化あるいは過渡期であった。言葉を換えれば,現代社会の諸問題が,例年以上に色濃く反映された大会だったとも言えよう。
コロナ禍という世界史的事件は,大会形式をオンライン開催へと変えた。大学もオンライン化して既に半年あまり,オンライン学会も経験はしている。とはいえ,自宅で大会を見るという行為は,やはり新鮮かつ不思議なものでもあった。
初めての試みにあたり,実務を担当した方々のご苦労は大変なものであったに違いない。大会委員長の発言にもあり,他の学会でも耳にしたが,オンライン化すると,学会当日の作業はオフラインよりも軽減される代わりに,事前準備には従来以上の労力を要するという。その困難を乗り越えて大会を支えてくださった方々に対し,心から感謝と敬意を表したい。
研究発表やコメント・パネリスト等で参加した方々もまた,相当なご苦労があったろう。国内移動や図書館利用が制限された中で,一定水準以上の発表内容を準備することは容易ではない。そのうえ,今回はフルペーパーや音声ファイル等の提出も事前に求められており,要求水準は例年よりも上がっていた。運営側としてやむを得ないことは理解できるが,個人的には厳しい要求だと感じたことも事実である。それらを克服して参加された方々にも,改めて感謝申し上げたい。
実践面では当然ながらトラブルもあり,シンポジウムではたびたび音声が入らず,発言をやり直す場面が見られた。だがこの種の問題を完全に防ぐことはもとより望めず,重要なことは発生後の対応である。その点でも大会運営側のリカバーは素晴らしいものだったと思う。次年度以降の形式は不透明だが,ノウハウの確実な継承が望まれるであろう。
変化あるいは過渡期という上述の印象は,他の点からも受けた。たとえばシンポジウムである。テーマや発表内容もさることながら,各発表が時間を遡及する順序で並んでいた点が気を引いた。これは昨年の天皇の代替わりを起点として,思想史的に過去へと遡るもので,つまり同時代における大きな変化の反映と言えよう。事情があって見られなかったが,思想史の対話もまた同様に,コロナ禍という現代の大事件をふまえたものと推察される。
ただ近世を専門とする身から言えば,研究発表の大部分が近代を対象としていたことには,寂しい思いもある。この傾向が明らかになって久しいとはいえ,近世以前の研究者には一層の奮起が求められるであろう。そして,これは自戒でもあるのだが,その奮起とは恐らく,アクチュアルな問題とどのような関係を築くべきか,という問いを,これまで以上に掘り下げたうえでなされるべきではないだろうか。
こうしたことを考えさせられた大会であった。
第14回日本思想史学会奨励賞は,例年通り,ニューズレターおよびホームページを通じて公募を行い,応募は単行本著作6点であった。それに学会誌『日本思想史学』第51号掲載論文で資格規定を満たした論文のなかから,同誌編集委員長の推薦になる論文2点を加え,合計8点を対象に選考を行った。
選考委員全員で慎重に審査を行った結果,全会一致で,上記著作への授賞が決定した。
北畠親房による史論『神皇正統記』は,時代をこえて読み継がれ,各時代の社会状況や知の枠組にあわせて再解釈されてきた。その近世から明治期までに至る受容史を詳しく分析し,明快に叙述した業績である。主な分析対象は,林羅山,山鹿素行,新井白石,闇斎学派(垂加神道),水戸学,明治国学にわたり,近代における国民教育の展開を展望している。またそれぞれの時代に関する先行研究を広く渉猟し,みずからの見解を研究史のうちに慎重に位置づけることも忘れていない。内容の幅の広さと,叙述の一貫性との双方に関して,優れた研究と評価できる。
齋藤氏は『神皇正統記』の思想に関しても,イデオロギー的な評価を避けつつ周到に分析し,その「正統」概念が含む,日本の「本来性」をめぐる見解が,近世から近代にかけて広く注目されるようになる過程を,着実な史料読解を通じて明らかにした。中世から近代まで,広い時代に関する必読の先行業績として,今後参照されることになるだろう。
近代日本の思想は「悪」とどのように向き合ってきたのか。本書はこの問いを主軸として,明治初年から20世紀初頭に至る時代を対象に,ミシェル・フーコーの理論が説く「統治権力」の形成過程と,そこで生じた対抗関係を分析した労作である。第一部は井上哲次郎による国民道徳論の編成,第二部は清澤満之による真宗大谷派の革新運動と「精神主義」の思想,第三部は国家の刑罰システムにおける監獄教誨の創出と展開を取り扱っている。
もっとも重要な功績は,第三部に見られる。繁田氏は監獄の制度面だけでなく,教誨師に焦点をあて,他者の「悪」を共感的に見つめようとする真宗大谷派の「異端的教誨師」が登場したことに注目して,同派の革新運動からの影響を明らかにする。そこから翻って,第二部で論じた清澤の「精神主義」に関しても,世俗の常識や善悪観を超越する主体形成の要素を掘り出すことに成功した。近代仏教史は近年に盛況を見ている研究分野であるが,繁田氏は近代国家の「統治権力」のメカニズムに対抗する,「自己の統治」の思想の系譜を,清澤とその影響圏のうちに見出し,説得力をもって描きあげている。
近年,思想家の顔が見えない思想史研究が多いなかで,本書は荻生徂徠と賀茂真淵という「畸人」の姿が浮かびあがってくる作品である。徂徠学と国学との関係という,従来さまざまに研究されてきたテーマに関して,社会のなかで生きて悩む思想家の意識を内在的に理解する方法によって,板東氏はその重要な側面を新たに切り出すことに成功した。朱子学の理論体系を突き崩す,個人の内面と外在的な「道」との分離という問題状況が生んだ,思想家の内面の「わりなきねがひ」について,独特の情感豊かな文体が,それを読者にも追体験させる効果を発揮している。
同時に,身分制社会の閉塞,市場経済の発展,家職国家の成熟といった社会的背景についても広く目配りし,思想家との仮想対話を通じて考える哲学的方法と,時代状況のなかに思想を位置づける歴史学的方法との両者をバランスよく駆使している。現在の近世思想史研究の達成水準を示す,重要な業績である。
このたびは過分にも第14回日本思想史学会奨励賞の受賞という栄誉を賜り,光栄に存じます。審査の労をとっていただいた先生方,大学院の指導教員であった島薗進先生と西村明先生,研究の進むべき方向性を指し示してくださった白山芳太郎先生と苅部直会長,そして拙著の刊行にあたって多大なる尽力をしてくださったぺりかん社の藤田啓介様に,心よりお礼を申し上げます。
『「神国」の正統論――『神皇正統記』受容の近世・近代』は,南北朝期に北畠親房が著わした『神皇正統記』の,近世から明治期に至るまでの受容史を主題としています。人の言葉はテクストとして書かれることで後の人々へと伝えられ,新たな言葉を生み出し,良くも悪くも世界を,そして人生を変えていきます。テクストの受容史をめぐる本書が明らかにしたのは,結局のところそのシンプルな事実に過ぎないのかもしれません。
自分の研究に何の意味があるのかと思い悩んだ時期もありましたが,ひそかに論文を読んでくださっていた大川真先生に励まされ,もう一度研究に向き合うことができました。私自身もまた『神皇正統記』の受容史に取り組むことで,様々な人との出会いに導かれ,知らず知らずのうちに人生が変えられていったのでしょう。
人間が言語を通して世界を認識し構築している以上,その営みに焦点を合わせた思想史研究の意義は,いわゆる実証主義的な歴史学とは別に残り続けるものと思います。拙著は多くの課題と未熟さも示していますが,日本思想史研究の発展に少しでも寄与できるよう,「天地の始は今日を始とする理なり」という親房の言葉とともに,これから再び新たな研究へと一歩を踏み出したいと思います。
このたびは拙著『「悪」と統治の日本近代』を日本思想史学会奨励賞に選出していただき,大変光栄に思います。選考の労をとっていただいた委員の皆様はじめ関係者各位にお礼申し上げます。
おそらくどのような研究にも主観的な立場性があって,研究のオリジナリティのためには欠かせないものだと思います。でもそれはあくまで主観なので,客観性を第一義とする学問研究の世界では,自分の研究に対してどこか不安や疑念を感じてしまうのは,避けがたいことなのかもしれません。ですから,こうして奨励賞という公的な評価を与えられることは,著者として大いに励まされる思いがします。
この本では,明治期を中心に,国民道徳の形成過程(井上哲次郎),人間の根源悪を見つめた宗教思想の世界(清沢満之),日本における監獄教誨の誕生について,考察しています。全体を貫くテーマは,書名にもあるように,近代日本における「悪」の問題。つまり,「近代日本は「悪」とどのように向き合ってきたのか」という問いのもと,そこでの多様な「悪」の現実や表象,「統治」の歴史的特質や展開について,探究しました。
いくつかの候補からこの書名に決めたとき,学友から,「歴史研究書なのに「悪」とつくの!?」とのけぞられました。「悪」とはたしかに抽象的で,実証的な研究にはなじみにくい言葉かもしれません。それでも「悪」は,歴史を通じて,犯罪や刑罰はいうまでもなく,自己規律や他者支配の場面において,かなり重要な意味をもち続けてきた観念であろうと思います。そのような「悪」を何とか学問の対象にしてみたいというのが本書の試みであり,思想史研究は,そうした領域に挑戦していくためにもっとも可能性あるディシプリンではないかと考えています。
論が充分に及ばなかったところ,問題がうまく分節化できなかった点など,もちろんあります。さらに今やり残していることのなかで最大の懸案が,これまで拙著に対して寄せられた真摯な意見や批判に対して,今後どのように応答していくかということです。多少でも論争的なスタイルを大事にしてきた人間として,これからも本書の問いを考え続けながら,先輩諸氏や同学の皆さんとの議論を大切に積み重ねていけたらと思います。今回の受賞をきっかけに,さらに多くの方々との新しい出会いに恵まれたら,望外の幸せです。
このたびは栄誉ある賞を頂戴いたしまして,光栄にも,また面映くも存じております。選考に際して様々な労をお取りくださいました選考委員ならびに事務局の皆様に,改めて御礼を申し上げたく存じます。
しかしながら,受賞をお知らせいただいた際に最初に胸に去来いたしましたのは,“意外”の感にほかなりませんでした。私は学部は東京大学文学部の哲学専修課程(かつての哲学科)で,院以降は同大大学院の倫理学専門分野で学びました。近現代ドイツ哲学から近世日本の儒教・国学へという対象の大きな変動はあったものの,ともに古典の精密かつ内在的な読解を通じて,そこから普遍性を有した思想的内実を取り出すことを学的方法の核とする学科でありました。この後半部分にアクセントがある点で,(研究者個々人の最終的な問題意識は措いて)まずは過去の出来事の可能な限りでの客観的な再構成を目指す歴史学的アプローチとは大きく性質を異にするものと捉えております。私が本書で荻生徂徠と賀茂真淵とを取り上げましたのも,彼らについて把握されるべき歴史的事実がいまだ明らかになっていないためというより,学部時代に専心して読んだハイデガーのテクストに匹敵し,時にそれらを凌駕する,(本質的に超歴史的な)人間の生き方にかかわる真理がそこに蔵されていると直感したためでありました。本書が果たしてその剔抉に成功しているか否かは,読者の方々の御判定に委ねたく存じます。ただそうなりますと,日本思想史学のアイデンティティが奈辺にあるかは議論が重ねられているとはいえ,このようなテクスト内在的で,かつある意味で“主観的”な論考が本学会で評価していただけるとは,夢にだに想像することができませんでした。
とはいえ,私の学が単なる主観的な思いこみに陥ることを逃れるための唯一の方途は,対象を客観的にきちんと知り尽そうとすることにほかならず,本書でも自分の乏しい能力の限りで,このことに努めたつもりでございます。或いはその点を御評価いただいたものかとも存じます。果たして自分が本賞に相応しいものかどうか,いまだ確たる内証をもつことはできませんが,今後の精進をもってこのたびの御恩沢にお応えする所存でございます。ありがとうございました。
こちらをご覧ください。
こちらをご覧ください。
『日本思想史学』第53号掲載論文の投稿を,下記の要領にて受け付けます。「投稿規程」に沿わない原稿は,査読の対象外とすることがありますので,規程を熟読のうえご投稿ください。多くの投稿をお待ちしています。
こちらをご覧ください。
2021年度大会は2021年11月6日(土)・7日(日)に慶応義塾大学(東京都港区三田)を会場として開催します。ただし,日程については変更の可能性がありますこと,あらかじめご承知おきください。変更がある場合には公式ウェブサイト等で速やかにお知らせいたします。
なお,2021年度大会での発表を申し込める者の資格は次の通りといたしますので,ご留意ください。
2021年度大会において発表の申し込みができる者は,2020年度(2020年10月〜2021年9月)分までの会費を完納した会員,または2021年4月末日までに日本思想史学会事務局へ入会届を提出し,その後に総務委員会による入会承認を得て,発表申し込みまでに2020年度分の会費を納入した新入会員とする。上記の申請資格を持たない者からの発表申し込みは、一切受け付けない。
「思想史の対話」研究会は,若手研究者間の研究交流の促進を主な目的として,日本思想史学会が開催するものです。2015年度に始まった研究会ですが,2019年度総務委員会の申し合わせにより,総務委員会の委嘱する3名の運営委員によって,総務委員会の助言を得ながら運営されることが確認されました。
新年度にあたり,石原和さんが退任し,代わって松川雅信さんが着任します。これにより2020年度「思想史の対話」研究会運営委員会は,
上野太祐,田中友香理,松川雅信
の3氏で構成されることになりました。
開催の日時,方式,企画内容については追ってご案内します。ご期待ください。
こちらをご覧ください。
2020年7月に実施された2020-21年度評議員選挙およびその後の手続きの結果,次の30名の方々が選出されました。
2020年11月7日に開催された評議員会において,次のとおり2020-21年度の役員が選出されました。
2020年11月7日(土)に開催された2020年度総会において,下記の事項が承認または決定されましたので,お知らせいたします。
決算額 | 予算額 | |
会費 | 2,401,000 | 2,178,000 |
刊行物売上金 | 73,260 | 70,000 |
前年度繰越金 | 2,626,214 | 2,626,214 |
その他 | 107,381 | 1 |
計 | 5,207,855 | 4,874,215 |
決算額 | 予算額 | |
大会開催費 | 400,000 | 400,000 |
学会誌発行費 | 980,298 | 1,000,000 |
通信連絡費 | 167,989 | 100,000 |
事務費 | 168,414 | 60,000 |
事務局費 | 53,100 | 70,000 |
HP管理費 | 69,880 | 70,000 |
「思想史の対話」研究会開催費 | 100,000 | 100,000 |
委員会経費 | 11,970 | 200,000 |
幹事手当 | 600,000 | 600,000 |
名簿作成費 | 0 | 150,000 |
予備費 | ― | 2,124,215 |
次年度繰越金 | 2,656,204 | - |
計 | 5,207,855 | 4,874,215 |
会費収入 | 2,495,460 |
刊行物売上金 | 70,000 |
前年度繰越金 | 2,656,204 |
その他 | 1 |
計 | 5,221,665 |
大会開催費 | 400,000 |
学会誌発行費 | 1,000,000 |
事務局費 | 300,000 |
HP管理 | 70,000 |
「思想史の対話」研究会開催費 | 100,000 |
委員会経費 | 200,000 |
幹事手当 | 600,000 |
名簿作成費 | 50,000 |
予備費 | 2,501,665 |
計 | 5,221,665 |
ニューズレター同封の別紙をご確認のうえ、会費の納入をお願いいたします。その際には、同封の振込用紙をお使いください。振込用紙を紛失した場合は、下記の口座にお振り込み下さい。
ゆうちょ銀行なお、3年をこえて会費を滞納された方は会則第4条に基づき、総務委員会の議をへて退会扱いとなります。
※当会の会計年度は,10月1日〜9月30日です。したがって,2020年度は2020年10月1日〜2021年9月30日となります。ご承知おきください。
※2020年度請求分より年会費に一部変更があります。