News Letter NO.31(冬季号) 2019年12月30日

2019年度の課題について(会長 苅部 直)

2019年11月2日、茨城大学にて開かれた2019年度総会において、新年度(2019年10月〜2020年9月)の事業計画が承認され、その他の件についても会長から報告いたしました。そのうち重要な点をいくつか、改めてお知らせします。

第一に、学会の創立50周年記念事業として編集に協力している『日本思想史事典』(丸善出版)ですが、多くの会員の方々を含む、編集委員・執筆者のご協力のおかげで、入稿・校正の作業を終え、2020年春に刊行できる見込みです。みなさまのご協力に深く感謝いたします。残念ながら価格が少々高くなり、特に若い会員の方々にとっては個人で購入しにくいのが申し訳ないところですが、大学図書館・公共図書館へのリクエストも積極的にご活用くださればありがたいです。

第二に、やはり50周年にかかわる事業として、2017・2018年度の大会シンポジウムを記念論文集として書籍の形で公刊する準備を進めています。こちらはまだ入稿が進行中ですが、執筆をお願いした会員の方々には、ご協力のほど、何とぞよろしくお願いいたします。今年度中には刊行できるように進めたいと思います。

そして第三に、会費の値上げの検討を総務委員会にて開始することにしました。総務委員会・評議員会での検討をへて、具体案を2020年度総会にて提案する予定です。学会事務局では諸経費の削減に努力し、ぎりぎりの状態で業務を進めていますが、現在、次年度への繰越金の額は毎年減少を続け、放置すればあと7、8年でゼロになり、通常の運営業務すら困難になることが明らかです。経費の節減も、会費の納入率を上げる努力も、考えられるすべての手段をすでに尽くしており、抜本的な収入増にはつながりません。苦渋の決断ではありますが、会費の値上げに踏み切らざるをえないと判断しました。もちろん、大学等の常勤職に就いている方と、そうでない方に会員を分けて、後者の方々については値上げ額をかなり少なくする方向で検討中です。何とぞご理解のほど、よろしくお願い申しあげます。

2019年度日本思想史学会大会を終えて(大会実行委員長 伊藤 聡)

茨城大学水戸キャンパスで行われた2019年度日本思想史学会を無事に終えることができて、心から安堵しています。今年は9月より台風等の災害が相続き、ここ水戸でも、10月13・14日には台風19号の影響で那珂川が氾濫して浸水被害が出ました。さらに、大会の前週にも、大雨・強風のために周辺の鉄道が全面不通となり、影響は翌日にも及び、正直申して、大会が始まるまで気が気ではありませんでした。

大会シンポジウムは「中世から近世へ―16・17世紀の思想史的課題」としました。私がこのテーマを立てようと提案した動機には、自分が中世を専門にしていることが大きかったと思います。皆さんもご承知のように、学会の会員の多くが近世・近代を研究対象にしていて、古代・中世の専門家が少ないため、シンポジウムも個別発表も近世・近代に比重が置かれがちでした。私が実行委員長を仰せつかってテーマを立てるときに、是非とも中世の問題を採り上げたいと思いました。と言っても多くの会員の関心から離れた中世固有のテーマを立てることはできません。そこで、中世から近世への移行期というテーマを思いついたわけです。これは無理矢理にひねり出したのではなく、現在の歴史学や文学研究においてホットなテーマとなっていることであり、日本思想史学からもアプローチすべき問題と考えたからに他なりません。発表者とコメンテーターの方々は、企画者のこのような意図を超えてダイナミックに論じてくれました。聴衆も事前の予想以上の方々が参加され、盛況の中に終えることができました。

2日目の個別報告も、発表・質疑応答とも充実したものとなりました。各会場とも一日中、活発な議論が続き、主催者として大変満足しております。複数の出版社に出店していただき、会員の著書なども多数並べられて、年に一度の学術大会にふさわしいものとなりました。また、大学図書館所蔵の「菅文庫」の展覧会の開催が大会日と重なり、会員の皆さまに見ていただくこともできました。

大会の準備から当日の業務に当たっては、事務局や大会委員の皆さんに多大なる助言・助力を得て、いくつか失敗を犯しながらも何とか終えることができました。心より感謝申し上げます。茨城大学には日本思想史の専門教員は私しかおらず、大学院生もいなかったので、このような助力がなくては無事に終えることができなかったと思います。ただ、学内においても、幸いに同僚や学部学生たちに手伝ってもらえたので、何とか乗り切れました。彼らにも感謝したく思います。

思想史学に限らず、人文諸学への風当たりが高い今日この頃、対外的なアピールも含め、このような学術大会を充実させていくことは、ますます必要となっています。今年の経験が来年度以降のよき糧となることを願ってやみません。

日本思想史学会2019年度大会参加記(岩手大学 中村 安宏)

第1日のシンポジウムのテーマは「中世から近世へ−16・17世紀の思想史的課題」。古典注釈の展開史を取り上げ、宗祇との比較を通して、契沖における新しい注釈の出現に注目した発表。北畠親房に理の思想の萌芽を見、山崎闇斎・熊沢蕃山による理の思想の深化の契機として、キリスト教の重要性に注目した発表。室町時代から江戸時代にかけての『神皇正統記』の受容史を、正統論に注目して分析した発表。3つの発表はいずれも刺激的であった。ただし中世から近世への思想の流れを、一部の知識人だけではなく全体的に把握するために、近世の特徴とされる学問の公開や出版が、広く庶民に何をもたらしたのか、上方と江戸、城下町と農村との地域差や時間差にも留意しつつ、検討する視点があっても良かったのではないか。

第2日の研究発表は、今年度からスクリーニングを導入して発表者の数を押さえ、発表と質疑応答の時間をそれぞれ5分ずつ延長した。実際に発表した筆者の感覚から言えば、余裕を持って発表することができたし、これまでよりも多くの方々から有益な質問や意見をいただくことができたように思う。発表内容については、一国史史観の超克の流れのなかで、東アジアの中で日本の思想を考えようとする発表(そのような視座から考えた方が良いと思われるものも含めて)が増えている(今年度はおおよそ9/20)。一方、思想史学にあっては他の学問分野と比べると、日本における多様な諸地域への視線が弱いように思う。今年度はそのような地域を問題にした研究発表がいくつかあった。地域は空間的にも時間的にも複雑である。さまざまな範囲の地域が重なり合うなかに人はいる。それだけではなく、とりわけ思想史の場合、自分の故郷(例えば安藤昌益にとっての二井田村)や、これまで暮らしたことのある地域(例えば荻生徂徠にとっての本納村)の記憶も大切であろう。人は「記憶としての地域」を引きずり、あるいはメディアを通して入ってくる「情報としての地域」を受け、これらと重ね合わせたり、比較したりしながら、「現実としての地域」において思想を形成するものと考える。

第1日の総会では、会員数が減っており、会費の差を設けて値上げを検討している旨の話があった。現在さまざまな学会で高齢化が進んでおり、地域の小規模の学会は存続の危機に直面していることは知っていた。そこまでは行かないにせよ、日本思想史学会も退会者に比べると、入会者が相対的に減少している現実を知らされた。会費に差を設けて値上げするのはやむを得ないと考えるが、長期的な方策として、日本思想史の魅力や面白さを、とりわけ若い人たちに訴えていくための方策を検討してみる必要もあるのではないか。

第13回日本思想史学会奨励賞授賞について(会長 苅部 直)

第13回日本思想史学会奨励賞への応募は単行本著作1点であった。それに学会誌『日本思想史学』第50号掲載論文で資格規定を満たした論文のなかから編集委員長の推薦になる論文2点を加え、合計3点を対象に選考を行った。

選考委員会における慎重な審査の結果、「第13回日本思想史学会奨励賞」については該当作なしと結論した。

第14回 日本思想史学会奨励賞募集要領 (2019年12月1日、日本思想史学会)

こちらをご覧ください。

日本思想史学会奨励賞選考規程(2010年10月17日、評議員会決定)

こちらをご覧ください。

編集委員会より

『日本思想史学』第52号掲載論文の投稿を,下記の要領にて受け付けます。「投稿規程」に沿わない原稿は,査読の対象外とすることがありますので,規程を熟読のうえご投稿ください。多くの投稿をお待ちしています。

〈投稿規程〉

こちらをご覧ください。

大会委員会より

2020年度大会は2020年11月7日(土)・8日(日)に甲南大学(兵庫県神戸市)を会場として開催します。また,6日(金)夕刻には「思想史の対話」研究会も開催される予定です。あわせてご参加ください。

なお、2020年度大会での発表を申し込める者の資格は次の通りといたしますので、ご留意ください。

〈2020年度大会発表申込資格について〉

2020年度大会において発表の申し込みができる者は、2019年度(2019年10月〜2020年9月)分までの会費を完納した会員、または2020年4月末日までに日本思想史学会事務局へ入会届を提出し、その後に総務委員会による入会承認を得て、発表申し込みまでに2019年度分の会費を納入した新入会員とする。上記の申請資格を持たない者からの発表申し込みは、一切受け付けない

総会報告

2019年11月2日(土)に開催された2019年度総会において,下記の事項が承認または決定されました。

【2018年度事業報告】

総務委員会
編集委員会
大会委員会

事務局

【2018年度決算報告・会計審査報告】(事務局長・監事)

【2019年度事業計画案審議】(事務局長)

【2019年度予算案審議】(事務局長)

【学会現況】(2019年10月1日時点)

【2018年度決算】
《収入》
  決算額 予算額
会費 2,168,000 2,650,500
刊行物売上金 68,688 80,000
前年度繰越金 2,922,425 2,922,425
その他 128,326 1
5,287,439 5,652,926
《支出》
  決算額 予算額
大会開催費 400,000 400,000
学会誌発行費 944,849 1,000,000
通信連絡費 108,077 150,000
事務費 123,122 100,000
事務局費 43,600 100,000
HP管理費 59,699 60,000
「思想史の対話」研究会開催費 100,000 100,000
委員会経費 206,278 250,000
幹事手当 600,000 600,000
予備費 2,732,926
次年度繰越金 2,626,214 -
5,287,439 5,652,926
【2019年度予算案】
《収入》
会費収入 2,178,000
刊行物売上金 70,000
前年度繰越金 2,626,214
その他 1
4,874,215
《支出》
大会開催費 400,000
学会誌発行費 1,000,000
通信連絡費 100,000
事務費 60,000
事務局費 70,000
HP管理 70,000
「思想史の対話」研究会開催費 100,000
委員会経費 200,000
幹事手当 600,000
名簿作成費 150,000
予備費 2,124,215
4,874,215

新入会員

≪個人会員≫

寄贈図書

事務局より

事務局よりお願いです。@連絡先の変更は、事務局宛に電子メールでご連絡ください。A入会手続は初年度の会費の納入をもって完了します。入会審査が終わったのちには速やかに初年度分の会費を納入してくださるようお願いいたします。

会費納入のお願い

同封の別紙をご確認のうえ、会費の納入をお願いいたします。その際には、同封の振込用紙をお使いください。振込用紙を紛失した場合は、下記の口座にお振り込み下さい。

                      ゆうちょ銀行
                      振替口座記号番号: 00920-3-196013
                      口座名称(漢字): 日本思想史学会
                      口座名称(カナ): ニホンシソウシガッカイ

なお、3年をこえて会費を滞納された方は会則第4条に基づき、総務委員会の議をへて退会扱いとなります。

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