News Letter No.6(夏季号) 2007年6月30日

2007年度大会開催案内

会場
長崎大学(長崎県長崎市)
*下記の時間は目安です。

10月20日(土)第1日

大会参加費
2,000円(発表要旨集代を含む)
シンポジウム「日本思想史の問題としてのキリシタン―思想と暴力―」(13:30〜17:00)
会場
長崎歴史文化博物館 1階ホール
報告者
大桑斉氏(大谷大学名誉教授)「近世国家の宗教編成とキリシタン排撃」
五野井隆史氏(東京大学名誉教授)「キリシタンと「殉教」の論理――キリスト教伝来の意味と殉教への道」
コメント
高橋文博氏(岡山大学教授)
総 会(17:15〜17:45)
会場
同上
懇親会(18:00〜20:00)
会場
セントヒル長崎
懇親会費
6,000円

10月21日(日)第2日

研究発表・パネルセッション(9:30〜16:30)
会場
長崎大学環境科学部

10月22日(月)エクスカーション第1日(移動は貸切りバス)

長崎駅前発−遠藤周作記念館(外海)−中浦ジュリアン生地(西海)−横瀬浦(ポルトガル船最初に寄港、西海)−佐世保海軍墓地−海上自衛隊資料館(佐世保)−生月島(平戸市)に宿泊(宿泊地を除く行程は予定です)

10月23日(火)エクスカーション第2日

生月島にてカクレキリシタン関係の遺物(生月歴史資料館)・ガスパルさま等遺跡の見学−松浦資料館(平戸)−長崎空港−長崎駅前

2007年度大会 シンポジウム報告概要

近世国家の宗教編成とキリシタン排撃(大桑斉)

禅僧雪窓宗崔が長崎で行なった排耶説法の記録『興福寺筆記』を史料として、排耶の論理を問題化する。雪窓は一経一論に拠らざる禅教一致論に立って念仏宗・日蓮宗の専修性を批判し、キリシタンも専修性において排斥される。また雪窓は仏教を盗んだとキリシタンを批判するが、それは林羅山が『儒仏問答』で仏教が儒教を盗用したという類似論で排仏を主張したことを想起させる。一致論で統合され、類似論は排除に機能する。

近世国家と宗教の関係論が踏まえられねばならない。国家は武力という暴力を独占する装置であり、思想・宗教も、国家に独占される時、暴力に転換される。また国家は社会から超越することで国家たりうるから、国家は超越性を属性とし、前近代でそれは宗教としてあったから、前近代国家は本質的に宗教性に立脚する。

武装領主の軍事政権から出発し、支配の正当性の弁証を課題とした近世国家も例外ではない。近世国家においては、その支配の正当性を弁証する論理として、創始者の神格化論、神君思想、さらには仏教治国論が、権力周辺のイデオローグによって構築される。近世国家は神聖国家の様相を呈してくる。一方で、東アジア世界における独自性確立が課題となると、日本中華論を象徴する固有の宗教として神陶信仰が注目され、その司祭者としての天皇権威の取込みがなされる。その時、個別に生み出されてきた宗教的国家思想を統合し、国家の正当性を弁証する宗教として再編成することという課題が生まれる。

それはまた、民衆の宗教性を取込み支配に参加させるという近世国家の根本的課題に対応している。近世初期の民衆は、神仏などの超越者絶対者や真理が心に内在するという唯心論から宗教的思惟を形成した。近世国家の宗教編成は、この唯心論を基盤に統合され、一つの宗教の観を呈してくる。それが排耶の論理の根底となった。

キリシタンと「殉教」の論理――キリスト教伝来の意味と殉教への道(五野井隆史)

キリシタンは、当時殉教を「マルチリヨ」Martirio、殉教者をMartirと言った。1595年に天草で出版された『羅葡日辞典』は、Martirio, Martirを「証人」「証拠人」と説明し、「デウスのご奉公に対して呵責を受け、命を捧げられた善人」とする。デウスのご奉公とは、神が人間(キリシタン)に与えた御恩に対して報いること、即ち神が人間を救うために十字架上に懸けられてその罪を贖われた愛に応えることである。最高のご奉公とは、神のために命を捨ててその証し人となることとされた。「マルチレスの御血はキリシタンダデ(教会)の種子の如き也」とされて、ローマ教会が実証してきた如く、殉教者の血によってキリスト教会は繁栄を約束され継続するものとされた。

キリシタンは、Imitatio Christi即ちキリストに倣いて生きることを求められ、このため、宣教師によって日本宣教の当初から聖人伝がキリシタンに語られた。聖人伝の多くはローマ帝政下における殉教者列伝であり、キリスト教が国教化する以前の異教世界への宣教において多くの血が流された殉教者の事跡(伝記・作業)が、同じ異教国日本における宣教に際し、迫害に直面したキリシタンへの殉教への教育のために読み解かれ、翻訳され写本化されて、ついに1591年に「サントスの御作業のうち抜書」が出版され、殉教に対するキリシタンの気持ちを高める役割を担った。

浦上の潜伏キリシタンが伝存してきた写本が長崎奉行所に没収され、『耶蘇教叢書』として伝わる。それに収まる「マルチリヨの鑑」「マルチリヨの勧め」「マルチリヨの心得」3点によって、マルチリヨ(殉教)の本質とマルチリヨが成立する条件などが明らかとなる。これらの成立は慶長年間以降とされるが、その輪郭と要旨は早くから形を成していたようである。1597年の26殉教事件以前にすでに二十数件の殉教があり、伴天連追放令発令を期に、宣教師はキリシタンに対する殉教への覚悟を一層強く固める必要を痛感したのであろう。

2007年度大会開催にあたって(佐久間正)

2007年度大会は、10月20日(土)、21日(日)、初めて長崎市で開催されます。しばらく来崎しなかった方々は、長崎湾をまたぐ女神大橋、出島の復元、ウォーターフロントの美術館、そしてシンポジウムの会場ともなる長崎歴史文化博物館等、長崎の変貌ぶりに驚かれることでしょう。長崎を<さるく>してそれらもご堪能ください。

1日目のシンポジウムの開催される長崎歴史文化博物館は長崎奉行所立山役所跡に新設され、近くには「おくんち」で有名な諏訪神社、階段を上った高所には東照宮があります。また、廃仏毀釈により撤去されましたが、かつては立山役所に隣接して、上野寛永寺を本山とする宏壮な安禅寺がありました。この地域はまさに徳川期の長崎の政教コンプレックスでした。このような歴史を有する地で、現代にもつながる思想と暴力という視点からキリシタンをめぐる問題を取り上げるシンポジウムを開催することは意義深いものと思います。

報告者の大桑斉先生、五野井隆史先生は近世仏教及びキリシタンをめぐって長年研究を進めてこられた方々ですので、私自身今から楽しみにしています。また、シンポジウムは公開ですので、市民の皆さんが研究の最前線を知るよい機会となると思います。<長崎学>の新たな深化と展開につながればと密かに期待しているところです。

しばらくぶりに、大会後にエクスカーションを実施します。シンポジウムの内容を深める意味からも、カクレキリシタン関係の資料や遺跡をめぐるエクスカーションを用意できないかと要望があり、少人数の大会事務局では大会を成功裡に終えることすらおぼつかない状態なので逡巡しましたが、折角の機会ですので企画しました。大会開催案内には欲張りな行程を予定として掲げました。

それでは、長崎でお待ちしています。本学会及び参加者の皆さんにとって有意義な大会及びエクスカーションとなるように尽力します。

 石田一良先生を偲ぶ会のご報告(佐藤弘夫)

2007年1月6日午後2時より、笠井昌昭、玉懸博之、原島正の三氏が世話人となって、湯島のホテル東京ガーデンパレスにおいて日本思想史学会名誉会長・東北大学名誉教授石田一良先生を偲ぶ会が開催された。会には喜久子夫人とご長男の隆様、次男の亨様をお迎えし、石田先生が在職された同志社大学、東北大学、東海大学各時代の同僚や教え子を中心に、50名ほどの出席があった。本学会からも前会長の平石直昭氏、現会長の辻本雅史氏をはじめ、多数の会員の参加があった。

世話人を代表してまず玉懸氏から挨拶があった後、日本学士院会員・本学会元会長源了圓氏、ならびに平石氏にご挨拶をいただいた。東北大学名誉教授の菊田茂男氏の発声による献杯に引き続き、出席者からスピーチがあった。会の最後にはご遺族を代表して石田隆様からお言葉があり、世話人の笠井氏の閉会の言葉をもって、盛会のうちに幕を閉じることができた。

出席者には石田一良氏の主要業績目録が配布され、本学会の創設者である石田氏の傑出した研究業績と教育者としてのお人柄を、改めて思い起こす一日となった。

 学会誌のweb公開化についてのお知らせ

本学会では、以下に示すような方針で、学会誌のweb公開化に向けて、総務委員会等において検討を進めております。実際の導入は、2007年度総会の議を経て決定する予定ですが、あらかじめ以下のことについて、会員各位にお知らせいたします。ご意見がありましたら、事務局までお寄せください。

〈学会誌のweb公開化に関する基本方針〉

  1. web公開化には国立情報学研究所を利用する。
  2. web化するためには、『日本思想史学』既刊分の寄稿者の著作権者(著作権継承者を含む)から、電子図書館サービスによる公開に関わる当該論文等の複製権と公衆送信権を日本思想史学会に委託してもらう必要がある。
  3. ただしこれは、著作権者あるいは著作権継承者の方々による複製権と公衆送信権の行使を妨げるものではない。
  4. 以上のことの同意を得るのに、該当者一人一人から同意書を取り付けるのではなく、一定の「公告」期間を設けて、その間に異議申し立てを受け付け、それ以外は同意したとみなすという方法をとる。

以上

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